
食品の放射性物質汚染は、食の安全で最も関心の高いテーマだと思います。過去に経験したことがないので不安も大きいのではないでしょうか。今回はその中でも、報道の多かった牛肉について取り上げたいと思います。
一部の牛肉から国の暫定基準値を超える放射性セシウムが検出され、出荷停止の措置が取られました。これは肥育されている牛のエサのワラに原因がありました。
震災で一時的に物流が滞った時にエサがなくなり、牛を餓死させるわけにはいかず、汚染されたワラを汚染されていると知らずに与えてしまったのが原因とされています。
しかし、今は、当然、汚染されたワラをエサにするようなことはありません。
セシウムのような放射性物質には、半減期があります。半減期にも2つあり、物理的半減期と、生物的半減期です。物理的半減期とは、例えば放射性セシウムの数が半分になるまでの期間で、一般的に半減期という言葉はこちらをさします。
もう一つの生物的半減期は、一度、体の中に取り込まれた物質が、排泄作用などで、体内から失われ、半分に減るまでの時間です。セシウムの生物的半減期が60日。つまり、放射性セシウムが検出されてすでに数カ月たった今、リスク要因はほとんどありません。
しかも、混乱の中、全頭検査が行われることになったので、汚染された牛肉はその後市場に出回ってはいません。すぐに全頭検査の体制が整えられたのは、全頭検査の仕組みがBSEの時から続いていたので、スムーズだったのが理由です。
スムーズに全頭検査の体制が整ったことを、私たち消費者は手放しで喜んでいいのでしょうか。
そもそも今回の牛肉における健康リスクは、受動喫煙と比較してもはるかに小さいものです。現時点でリスクは限りなく小さく、また発生の原因であった原発も冷温停止に至っており、追加的に汚染が拡大する可能性もほとんどなくなっています。
つまり、現時点で全頭検査には必然性はなくなっています。本当なら、いろいろな食材のサンプルを取って検査をすることのほうが科学的に重要なのですが、食品の放射性物質検査の約半分は、ほとんどリスク削減の必要のない牛肉に使われているのです。
牛肉だけを過剰に心配しすぎると、ほかのリスクを見落としてしまいます。今後は、東北地方を中心とする牛肉に関しては、安心して食べていただいてよいでしょうし、全頭検査を続けることを求めない方が、より対策すべきことに予算が回り、全体のリスクは下がることになります。
にもかかわらず、いまだに一部のメディアでは危険だ危険だと騒いでいます。またそういう発言をする人もいるので、その結果風評被害が発生しています。
危険を煽ったり、必要以上に怖がっているのを見ると、「リスクは量である」ということを忘れてしまっているように感じます。
「リスクがあるかないか」で言えば、あらゆるものにリスクはあり、この世のすべての食べ物にリスクはあります。リスクがあるものは食べない、というのであれば、この世に食べるものはなくなってしまいます。
普通に野菜を食べても毒性のあるシュウ酸を摂取してしまいますし、ミネラルウォーターを飲んでもヒ素を摂取してしまいます。
上述の牛肉のリスクはそれと水準の変わらないリスクで、死亡の原因となるリスクとしては1億分の1以下です。
健康を害したり死に至るリスクとは、その人が直面するあらゆるリスクの足し算の合計になります。小さなリスクにこだわりすぎるよりも、「全体のリスクの量を減らす」という視点を持つことが大切です。
子どもを持つ親としては、できる限りリスクを減らしたいものです。子を持つ父親として、私自身もそう思います。
ならば、できるだけ大きなリスクを小さくすることに予算を使ってもらわないといけません。例えば同じ予算を使っても、10000の大きさがあるリスクを半分にしたら5000減りますが、1しかないリスクを半分にしても、全体は0.5しか減らないのです。
国際的に、リスクは死亡のリスクが100万分の1以上のものについて対策を優先することが目安になっています。
100万分の1以上のリスクは数多く存在し、こういった大きいリスクを小さくしていかないと、全体のリスクは下がりません。従って、1億分の1以下の小さなリスクにこだわってお金を使い続けると、予算は有限なので、「注目されていないけどより大きなリスク」を下げることに予算が振り分けられなくなるからです。事実振り分けられていません。ついでにいうと、受動喫煙も含むタバコのリスクは、今回の牛肉のリスクの数100万倍です。食中毒のリスクも数十万倍です。
大切なことはこういった放射性物質に関する問題でも、「より大きなリスクから選択的に対策する」ということを頭に入れておけば、みなさんが本当に面しているリスクを実際に下げていくことができるのです。
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