企業は常に新たな顧客開拓に努める必要がある。セッション5「顧客開拓」では、まずPART1として日経BP総研 所長 望月洋介が講演を行い、的確な情報発信によって、潜在顧客を集める構図を作る重要性を説いた。PART2では大和リース取締役常務執行役員の北哲弥氏と日経BP総研 戦略企画部長 高橋博樹が登壇。PPP(公民連携)分野におけるメディア協業の効果や将来像について討論した。

 「顧客開拓」をテーマとするセッションはPART1とPART2の2部構成で進められた。まずPART1では、日経BP総研 所長 望月洋介が「顧客開拓を加速する『総合情報戦略』構築ソリューション」と題した講演を行った。

 成長を期す企業にとって新規事業への取り組みや新市場の開拓は不可欠である。だが、新しい事業・市場では潜在的な顧客がどこにいるのか、どのようにアプローチすればよいのかが分からないという悩みを抱えることが多い(図1)。

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図1:顧客はどこに?

 望月は「まずは『商品・技術・事業』を“既存”と“新規”に分け、それに対応する『市場』を、『既存市場』『新市場』『潜在市場』の軸でマッピングし、それぞれに合う顧客開拓の方法を探ってみよう」と提案。日経BP総研が製造業A社に対して提供したソリューションを紹介した。

協業メディア立ち上げで売り上げ急増

 既存の商品を新市場に向けて売り込んだ事例として、メーカーA社に対するソリューションを紹介した。従来、A社は、国内の大手10社とその周辺企業を含めて20社程度に対して営業を行っていた。だが、規制緩和によって新規参入企業が相次ぎ、潜在顧客は一気に1000~2000社に膨らんだ。従来の100~200倍にも拡大した顧客に対し、どうアプローチをすればよいか。専門知識が必要な分野で営業マンを100倍に増やすのも、急に代理店を増やすのも現実的ではない。望月は「この状況で営業に行くのは“負け”。潜在顧客が集まってくる構図をつくることを考えた」と語る。

日経BP総研 所長 望月洋介

 そこで、日経BP総研とA社は機器に関する協業メディアを立ち上げて記事を配信することにした。その結果、日本中の新規参入企業が閲覧してA社に問い合わせが集まり、売り上げは急拡大した。

 続いて望月は、既存技術を潜在市場に売り込んだ事例として、大手企業とのパイプはあるものの、地方の中小企業に対するアプローチが十分でないという課題を抱えていたある公的な研究機関に対して提供したソリューションを提示した。

 日経BP総研は、この研究機関が保有する高度な技術を一般の中小企業にも分かりやすく紹介する解説記事を掲載した。記事にはホワイトペーパーを加え、ダウンロードできるようにした。こうしたアプローチが功を奏し、地方の中小企業を数多く含む潜在的な顧客情報を約100件入手することに成功した。

企業に求められるメディアスキル

 さらに望月は、既存技術を海外市場へ売り込む事例として、国内大手企業や北九州市が持つ公害に関する技術をアジア展開する試みを紹介した。日経BP総研は、日本の経験をきちんとした情報として“輸出”しようと、「公害を克服した北九州市」と題した中国語のコンテンツを発信した。すると中国語で「中国は謙虚に、偏見を持たずに、日本の経験と教訓を十分に生かすべきだ」といった書き込みがされた上で情報が拡散し、問い合わせが数多く寄せられたのだ。

 こうした事例をもとに望月は、「国内・海外の別なく、情報を上手に発信することが顧客開拓、事業開発の要となる。業界の垣根や組織の壁などで『情報は簡単には伝わらない』ことを認識した上で、適切な企業情報戦を展開することが必要」と説く。

 その基本動作として重要なのがニュースリリースだ。リリースは「信頼度の高い企業の公式見解」であり、ステークホルダーに直接届く。読む人に分かりやすく伝わる内容となるよう、企業がメディアスキルを身につけることが必要になっていることを指摘した。

 望月は、「企業には、ニュースリリース、Web、SNS、展示会、学会発表など、あらゆる手段で的確に情報を発信するための総合情報戦略が求められている(図2)。それが新規顧客開拓、新規事業開発にもつながり、ひいては企業価値の最大化につながる」と強調、情報に対する意識変革の重要性を強調した。

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図2:統合情報戦略を作る

協業メディアで成果を出した大和リース

 PART2では、大和リース取締役常務執行役員の北哲弥氏と日経BP総研 戦略企画部長 高橋博樹が登壇。「ステークホルダーの意識を変えるには、恒常的な情報発信が必要」と題し、両社が2015年2月に立ち上げた協業メディア「新・公民連携最前線 PPPまちづくり」について討論を行った。

日経BP総研 戦略企画部長 高橋博樹

 新・公民連携最前線は、公共サービスに民間の活力を導入するPPP(Public Private Partnership=公民連携)をテーマとするメディアである。大和リースでは、PPPを中核事業の1つとして拡大させたい意向があったものの、PPP自体が十分に全国の自治体に普及していないという課題を抱えていた。そこで、自治体の首長や実務担当者を啓蒙し、また地方創生に興味のある企業、学識者、地方銀行などのキーパーソンをマッチングすることを目的に、日経BP総研とともに新・公民連携最前線を立ち上げた。

 新・公民連携最前線は日経BP総研の16人の研究員が記事作成に携わる。内容はニュース、事例研究、コラム、自治体首長やキーパーソンのインタビューなど。大和リースが画期的なPPP事業を手掛けた際にはもちろん取り上げるが、競合企業の情報もまんべんなく掲載している(図3)。

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図3:新・公民連携 最前線 -PPPまちづくり-

 読者のうち7000人は自治体関係者。全国の自治体が1780ほどだからPPPに関わる中核メンバーの多くを獲得できていると考えられる数字だ。ページビューは25万~30万ほど。高橋は「コンテンツ量は隔週刊の雑誌に匹敵する。PPPの最先端情報が集まるメッカと認知され、情報や問い合わせが自然に集まるようになった。さらに質・量とも充実した情報をスピーディーに発信できるプラスのサイクルが回り始めている」と語る。

新たな出会いや気づきを創出する場をつくる

 北氏は「営業担当200人が毎日のように各自治体を訪問しているが、『記事を読んだよ』という声をよく聞く。『取り組みを掲載してほしい』と言われることもあり、情報収集・交換の良いきっかけになっている。サイトを通じて、PPPのキーマンとの接点も持ちやすくなった」と協業メディアの利点を語る。見逃せないのが社内への影響。社員の知識を増やす面でも効果があり、顧客の課題や悩みに対し、サイトに載った事例などからソリューションを提案できるようになったという。

大和リース取締役常務執行役員 北哲弥氏

 これまでに大和リースがPPPで自治体と契約を結んだ件数は789件。利用床面積は14 2000坪。庁舎、校舎など施設整備のほか、道の駅、ホテルなどに関わったケースもある。富山市では小学校跡地を活用し、医療、福祉、健康をテーマに20の公共部局、民間企業が集合した公民複合施設「総曲輪レガートスクエア」の建設に携わった。

 「新・公民連携最前線によってPPPのムーブメントを醸成することができた」(高橋)とみる日経BP総研は、さらにこの動きを進化させようと、官、民に加え学会、金融界のキーパーソンも招いた円卓会議を開催。リアルな場で健康、IT、安心、安全などのテーマを徹底議論する機会を設け、新しい出会いや気づきの創出を演出している。今後、円卓会議をより機能させるため、SNSを活用した情報交換の場も設定する予定という。

 「PPPはまだまだ成長する分野。新・公民連携最前線というプラットフォームを今まで以上に影響力のあるものとしていきたい」。北氏は協業メディアにさらなる期待を示していた。