新規事業の創出は企業にとって永遠の命題だ。だが「いいアイデアが出ない」「ビジネスモデルを作れない」といった理由で足踏みしてしまう企業は多い。「事業創出」をテーマとする本セッションでは、日経BP総研 クリーンテック研究所長 河井保博、同中小企業経営研究所長 伊藤暢人、同マーケティング戦略研究所 上席研究員 渡辺和博が登壇。これまでにBP総研が支援したプロジェクトから事業創出を成功させるヒントを探った。

 「新規事業創出・新商品開発の処方箋 なぜ新事業が立ち上がらないのか?ボトルネックを解消するソリューションを紹介」と題した「事業創出」セッションでは、日経BP総研 クリーンテック研究所長の河井保博、同中小企業経営研究所長の伊藤暢人、同マーケティング戦略研究所 上席研究員の渡辺和博らが議論を進めた。

 技術の進歩や産業構造の転換などにより、企業を取り巻く事業環境は激しく変化している。同じ商品・サービスが右肩上がりで売れ続けることは期待できない。先手を打って新規事業を創出・育成することが不可欠だ。

 とはいえ、事業創出は容易ではない。取り組んではみるものの、「いいアイデアが出ない」「コンセプトが固まらない」「ビジネスモデルを作れない」「パートナーが見つからない」「会社を説得できない」といった悩みを抱え、立ち止まる企業は多い(図1)。

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図1:事業創出の悩みとは?

 河井は、「うまくいかない原因は、結局のところ人材やスキルなどリソース不足にほかならない。解決するには外部のリソースを活用するしかない」と指摘する。本セッションでは、日経BP総研が独自の人的ネットワークや知見を提供して支援してきたプロジェクトの中から、いくつかの事例を取り上げ、事業創出を成功させるヒントを示した。

女性だけのチームで地域発のヒット商品を創出

 まず渡辺が出雲商工会議所を支援し地域発のヒット商品を生み出した事例を紹介した。

日経BP総研 マーケティング戦略研究所 上席研究員 渡辺和博

 新しい名産品開発を目指していた出雲商工会議所(島根県出雲市)は、「出雲風土記」という地域の古い文献に出てくる薬草に目をつけた。当初は「薬膳カレー」「薬膳スープ」などを開発しようと動いていたが一向に議論が進まず、日経BP総研に支援の要請があった。

 日経BP総研では、「ヒット商品は女性から」など、これまで培った知見に基づいてアドバイスした。そこで商品のターゲットを「働く若い女性」と定め、薬草を現代女性が求める癒やし、美容、健康などとつなげることを考えた。新たに地元のデザイナー、料理教室の講師、PR会社社員、行政・商工会議所職員など、20~50代の女性から成る開発チーム「いずも薬草女子部」を立ち上げた(図2)。

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図2:女性開発チーム「いずも薬草女子部」を立ち上げ

 チームが開発を進める中で日経BP総研は、ターゲット設定の根拠づくり、商品とブランドのコアとなる世界観づくり、プロジェクト管理、販路開拓、デザインのコンサルティングなどといった面で支援。こうして生み出したのが「食べるお守りシリーズ」として「大豆と米粉のシリアルバー」「米粉のクッキー」である(図3)。

 食べるお守りシリーズは出雲特産の薬草「アカメガシワ」を配合し、添加物や小麦粉・砂糖・油を使わずヘルシーな点が特徴だ。開発後、すぐにコンビニエンスストア「ナチュラルローソン」全店で定番商品として販売されることになった。現在、開発チームはラインナップを拡大した新シリーズを準備中だ。

 渡辺は「今の消費市場は女性が牽引している。その女性たちが地域発商品に期待するのは『正直』『ナチュラル』『高品質』『素朴』など。そうした“勘所”を押さえ、的確に開発を導いたことがヒットにつながった」と振り返る。

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図3:食べるお守りシリーズ」の商品化を実演

様々な業界、企業の人と絆をつくり続ける

 続いて河井が事業創出におけるパートナーづくりに関する取り組みを紹介した。

日経BP総研 クリーンテック研究所長 河井保博

 日経BP総研は、事業創出を狙いとして異業種交流を通じたビジネスプロデュース講座「ビズラボ」を開催している。「誰がどんなアイデアを出しても絶対にNOと言わない」こと、「リスクを考えず責任のない開発をする」ことを約束事とし、活発な議論を促している(図4)。

 これと並行して、アイデアやビジネスプランを具体的な事業に育てる「リアル開発会議」も開催している。現在、「遠隔診断システム」「100kg可搬ドローン」などをテーマとするリアル開発会議が進行中だ。

 次に河井は、NTTコミュニケーションズに対して提供したソリューションを紹介した。5年ほど前から企業向けモバイルサービスを手掛けているNTTコミュニケーションズにとって、IoT(Internet of Things)時代の到来は大きなチャンスである。

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図4:異業種交流会「ビズラボ」

 しかしIoTは従来提供してきた企業内ネットワークとは違う。モバイルサービスのプレーヤーとしての認知度が十分ではないNTTコミュニケーションズにとって、従来築いてきた顧客基盤は必ずしも役に立たない。採用を加速させるには、IoTを生かした顧客の新ビジネスを、顧客と一緒になって生み出していく必要がある。

 そこで日経BP総研は、NTTコミュニケーションズを中心にパートナーとなり得る異業種企業が集まって話し合える場を設けようと、「IoT新規ビジネス創出フォーラム」を立ち上げた。6回のフォーラムを通して大手企業からスタートアップ企業までが集まり、交流を深めながらビジネスプランを練った。参加者同士の距離を縮めることで、ビジネス創出の芽を膨らませた。

 河井は「事業創出に百発百中はあり得ない。新しいビジネスの芽をどんどん作ることが大切だ。パートナー探しの一環として、様々な業界や企業の人と人との絆を作り続ける必要がある」と指摘した。

クラウドファンディング活用のススメ

 次に中小企業における事業創出について解説した伊藤は、最大の課題である資金不足解決の手段として、クラウドファンディングの活用を勧めた。「資金を集められるだけでなく、自分たちのアイデアを世に出した時に顧客を獲得できるか否かをマーケティングすることが可能で、商品・サービスの発売前からファンを作ることもできる」と利点を説明する。

日経BP総研 中小企業経営研究所長 伊藤暢人

 クラウドファンディングの成功事例の一つが、エコスが開発した「どこでもイース」。段ボール製の折り畳みいす4脚とテーブルをセットにしたもので、軽くコンパクトで持ち運びしやすい点が特徴である。「欲しい」「使いたい」という賛同者が多く、あっという間に資金が集まり、商品化できたという。

 伊藤は、日経BP総研が日本最大級のクラウドファンディングであるReady for(レディーフォー)と連携し、活用しやすい体制を整えたことを説明。さらに事業創出支援の切り札として、富士市産業支援センターf-Biz センター長の小出宗昭氏を客員研究員に招いたことも紹介した。小出氏は月に350~400件の相談を受け、その70%で売り上げを伸ばしてきたという中小企業支援の“カリスマ”だ。中小企業の良さを見つけ、褒めて強さに転換し、ヒット商品を生み出すのが小出氏の流儀だ。

 セッションの締めくくりとして、これらの事例に基づき、事業創出を成功させる3つのポイントをまとめた。

 第1に、出てきたアイデアに対して否定したり、上から押さえつけたりせず、良いところ、強いところを見つけ、より良い方向に転がしていくこと。それが参加メンバーのモチベーションを高め、一丸となって取り組む空気を作り出す。

 第2に、商品・サービスなど新事業がターゲットとする顧客の声を聞き、賛同・共感してもらえるようなストーリーを作り上げる。

 第3に、若者や女性など従来とは違うメンバーに担当してもらう。地方創生では「よそ者、若者、ばか者」が主役とよく言われるが、事業創出も同様である。万一うまくいかない時には、上に立つ者が尻ぬぐいをする姿勢を見せれば、若者や女性は思い切ってチャレンジできる。

 行き詰まりや停滞を打破して新たな事業を創出し、経営の持続性を高める必要性を改めて説き、セッションを締めくくった。