社会環境がめまぐるしく変化する激動の時代、企業はいかに変革を進めるべきか。「経営改革」セッションの第1部では、日経エコロジー編集長 田中太郎とキヤノン、三菱ケミカルホールディングスの2社が、「ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の拡大や、国連の「SDGs(持続可能な開発目標)採択に伴って企業に求められている持続可能な経営について議論を進めた。第2部では、日経BP総研 中小企業経営研究所長 伊藤暢人が中小企業を強靱化する変革の方向性を示した。

 「経営改革」をテーマとするセッション1のPART1では、キヤノン環境統括センター所長の古田清人氏と三菱ケミカルホールディングスKAITEKI推進室長の神田三奈氏、日経エコロジー編集長の田中太郎が登壇。「長期的な経営課題に先手を打つには? ESG・SDGsで飛躍する経営改革ソリューション」と題し、企業が永続的に勝ち残るための要件を探った。

社会が企業を監視する“ソフトロー”の流れ強まる

 今、企業は長期的視点に立って、サステナビリティを実現する経営を行うことが求められている。はじめに田中編集長が企業を取り巻く環境の変化から、その必要性を説明した。ポイントは3つあるという。

日経エコロジー編集長 田中太郎

 1つ目のポイントは、地球温暖化の深刻さが増し、資源の枯渇が予想される中、様々な規制が強化される方向にあることだ。2016年には地球温暖化対策の新しい国際ルール「パリ協定」が発効されたほか、EU(欧州連合)や米カリフォルニア州では厳しい自動車排ガス規制が進んでいる。国内では2020年の東京五輪に関連して違法伐採木材の調達を規制する「合法伐採木材利用促進法(クリーンウッド法)」が施行され、事業者は扱う木材の合法性を確認する必要が生じた。今後も多方面でさらなる規制強化が進むと予想される。

 2つ目のポイントは、ESG(環境・社会・ガバナンス)への対応を考慮に入れて企業を選別し投資する「ESG投資 が拡大していること。国内でも年金積立金管理運用法人(GPIF)が今夏、ESG指数を選定して投資を開始し話題になった。

 3つ目のポイントは、こうしたトレンドに伴い、企業に対する情報公開の圧力が高まり、NGO(非政府組織)などから厳しい目が向けられるようになっていること。田中は「違反に対し罰則を科すのではなく、企業に情報公開を義務づけた上でNGOをはじめとする社会全体が監視し、行動を強制する“ソフトロー”の方向に進みつつある」と説明する。

 また、2015年に「持続可能な開発目標(SDGs)」を採択した国連は企業に対し、率先して社会課題の解決に貢献することを求めている。企業は貧困、格差、ダイバーシティーなどの社会課題にどう取り組むかを開示することが必要となっている。

 田中は「企業は時代を先取りしていち早く規制に対応し、自社の姿勢を明確に情報開示すること、持続可能性に関するビジョンを打ち出すことが求められている」と強調(図1)。サステナビリティを実現する経営を実践する先行企業として、キヤノンと三菱ケミカルホールディングスの2社を紹介した。

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図1 企業に新たに求められる姿勢

カーボン・オフセットの先行事例示したキヤノン

 まず、キヤノン環境統括センター所長の古田氏は、同社の環境経営の取り組みの中から、販売会社であるキヤノンマーケティングジャパンと共同で進めた「カーボン・オフセット」について紹介した。

キヤノン環境統括センター所長 古田清人氏

 キヤノンは業界に先駆けて1992年にライフサイクルアセスメント(LCA)を導入し、CO2排出削減に取り組んできた。古田氏は「結果の評価であるLCAをどう役立てるかを追求する中でカーボン・オフセットに行き着いた」と語る。

 経済産業省が主導する「どんぐりマーク認定」を複写機・複合機で初めて導入。製品ライフサイクルの全体にわたって発生するCO2をオフセットし、「CO2排出実質ゼロ製品」として販売する。使用時の消費電力など、「使用・維持管理段階」においてカーボン・オフセットした排出量は、ユーザーが「地球温暖化対策の推進に関する法律」に基づく「算定・報告・公表制度」にも利用できる仕組み。ユーザーのCO2削減にもつながるという付加価値を提供した(図2)。

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図2 キヤノンのカーボン・オフセットの取り組みの歩み

 「オフィス内でCO2排出量を削減しようとすると新たな設備・機器の導入などが必要。それに比べると『オフセット・クレジット制度(J-VER制度)』の利用はコスト面でもメリットがある」と古田氏。効果的なCO2削減手法やモデル事業創出が求められる中、キヤノンは有望な先行事例を提示した格好だ。

三菱ケミカルは非財務分野にもKPI定める

 三菱ケミカルホールディングスKAITEKI推進室長の神田氏は、持続的企業価値の向上を狙った「KAITEKI」経営について説明した。

三菱ケミカルホールディングスKAITEKI推進室長 神田三奈氏

 同社はKAITEKIを「時を越え、世代を超え、人と社会と地球の心地よい状態が続いていること」と定義づけ、2011年度から「KAITEKI実現」をビジョンに掲げる。「社会性」「経済性」「イノベーション」という3つの基軸から生み出す価値の総和を企業価値と捉え、その価値を高めようと動く(図3)。

 具体的には、財務分野と同様に非財務分野に関してもKPI(主要な業績評価指標)を定めて経営戦略を構築し、実行している。企業活動の判断基準は「サステナビリティ」「ヘルス」「コンフォート」。この3つを基に注力する市場を定めると同時に、目指す企業像に照らして指標を選定。目標やPDCA進捗を定量化する。

 「三菱ケミカルホールディングスが年に1回、事業会社を業績評価する際には、財務目標だけでなく非財務目標の達成度も反映させている。評価の仕組みにも落とし込むことで、経営陣や従業員の意識に着実に浸透しつつある」。神田氏は、KAITEKI経営推進の手応えをこう語った。

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図3 企業価値を高めるKAITEKI経営

 このように持続可能な経営で先を行く2社だが、CSR(企業の社会的責任)経営のキーワードとして急浮上したSDGsに対しては、どう向き合おうとしているか。

 神田氏は、「社会が安定して初めて企業の繁栄が可能となる。地球市民の一員として、世界共通のプラットフォームであるSDGsを活用し、課題解決の役割を果たしたい」と語った。また古田氏は、「現在は、今までの取り組みの方向性が正しかったかどうかを確認・整理するのにSDGsを活用している段階。これからは2030年というゴールに向け、課題を解決する努力をビジネスに結びつける段階へとステップアップさせなくてはならない」と意気込みを示した。

 田中は「SDGsは自社の取り組みを世界に示す上で分かりやすい共通言語。積極的に活用してビジネスにつなげてほしい」と締めくくった。

2019年ショックが中小企業を襲う?

 PART2では「中小企業のための経営強靱化プログラム」と題し、中小企業が成すべき経営改革について、日経BP総研 中小企業経営研究所長の伊藤暢人が講演した。

日経BP総研 中小企業経営研究所長 伊藤暢人

 現在、中小企業の最大の課題が求人難(図4)。伊藤は、9万人のボランティアが必要とされる2020年の東京オリンピック・パラリンピックがさらに追い打ちをかけると予想する。「ボランティアの募集要件が発表され、募集が本格的に始まる2019年には、会社を辞めて参加する従業員が続出する可能性がある。中小企業は、この“2019年ショック”に備え、今から魅力にあふれ、人が辞めたいと思わない会社に変身するべき (伊藤)という。

 伊藤はそのためのポイントとして、採用力をアップすること、離職率を引き下げること、自社の強みと弱みを知ること、体質改善・対策のための資金を生み出すこと、経営者自身の経営力を磨くことの5点を挙げた。また、人手不足を乗り越え、「100年企業」を目指すには、事業承継やM&A(事業の合併・買収)も考慮する必要があると説明した。

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図4 中小企業の悩み

 2020年を過ぎると景気はスローダウンし、中小企業の業績にも陰りが出ると見込まれている。経営資源に乏しい中小企業は今のうちに事業を「断捨離」し、利益率が高い仕事に集中することも必要。結果的にそれが働き方改革にもつながると指摘した。

 それを実践する企業として、伊藤は兵庫県の東海バネ工業を例に挙げた。月の残業時間は平均わずか7時間。それなのに社員の年収は増え、さらに1人目の子供の出産には10万円、2人目は20万円、4人目は100万円の金一封を出すなど福利厚生も充実している。

 伊藤は「社員の状況を見て仕事を選び、仕事の質を向上することで会社は生まれ変わることができる。会社の立ち位置や身の丈を考え、これから先の事業を展開してほしい」と力説した。