この先、社会や産業はどう変化していくのか。企業は中長期的な未来を見据えて経営戦略を立てなくてはならない。特に新規事業を立ち上げる際には、その有望性・将来性を判断するために市場規模の予測が不可欠。しかし、新しい事業の市場規模をどう読めばよいのか悩む企業は多い。本セッションでは、ミレニアムパートナーズ 代表取締役パートナーで日経BP総研 未来研究所の客員研究員を務める秦充洋が、未来の市場規模を予測する方法論を解説した。

 持続的な成長を目指す企業は、社会や産業の中長期的な未来像を見据えて戦略を立案し、新規事業の開発や既存事業の再構築に取り組むことが求められる。その際には、手掛ける事業の有望性や将来性を判断する材料として、およその市場規模を把握しておくことが重要だ。場合によっては世の中に存在しない市場の姿や規模を推察することも求められる。

 「市場予測」をテーマとする本セッションでは、ミレニアムパートナーズ代表取締役パートナーで日経BP総研 未来研究所の客員研究員を務める秦充洋が、「未来の市場規模をずばり予測する」という題名で講演を行い、コンサルティング実務で使われる「まだない市場を見通すための方法論」を解説した。

市場の将来を見据え、確実にチャンスをつかむ

 秦はまず過去10~20年を振り返り、多くの業界で「破壊的変化」が起きて既存市場が大幅に縮小したり、他の市場に入れ替わったり、全く新しい市場が急速に立ち上がるといった事態が生じてきたことを説明した。

ミレニアムパートナーズ 代表取締役パートナーで日経BP総研 未来研究所客員研究員の秦充洋

 例えば携帯電話はスマートフォンに取って代わられ、デジタルカメラ市場もスマートフォンの普及に伴って消滅しかけている。また、音楽、映画、ドラマなどのネット配信サービスが拡大し、レンタルビデオショップやCDショップは立ち行かなくなりつつある。百貨店や専門店はアマゾンに代表されるネット通販に市場を大きく奪われた。UberやLyftなどの配車サービスの人気が高まり、各国のタクシー会社は次々に破綻、あるいは市場から撤退している。

 秦は、「破壊的変化は今なお現在進行形で起きている」と指摘する。クラウドやIoT、AI・人工知能、ロボティクス、ブロックチェーン、自動運転などの技術に加え、シェアリングエコノミー、フィンテック、アグリテックといった新しい波も押し寄せている。

 振り返るとインターネットの台頭やスマートフォンの誕生など、大きな変化は10年に1回ほどの周期で起きている。「iPhone」が登場して10年。そろそろ次の大きな変化が本格的に進行する時期だ。秦は「自動運転、ブロックチェーン、ロボットなどがビジネスに大きなインパクトを与えるようになるのではないか」と予想する。

 大きな変化が生じた時は企業にとってチャンスだが、実際にはそのチャンスを捉えられないことが多い。20年前にインターネット、10年前にモバイルが台頭した時にも、「うちには関係ない」と見過ごし、気づいた時には新興企業に新たな市場を取り込まれてしまった企業が少なくない。秦は、「新しい市場の誕生や既存市場の将来を見据えるノウハウを社内に蓄積しておくことが重要」と説く。

「フェルミ推定」と「ロジスティック曲線」で市場規模を推計

 秦は、市場が大きく成長すると見られる20領域の市場規模を予測した「未来市場2018-2027 (日経BP社、2017年12月刊行)を監修・執筆しており、その中から「10年後の国内市場規模ランキング」を紹介した。

 それによると、10年後に最も大きい市場に成長すると予測されたのは「高度運転支援/自動運転」の12兆円で、以下、「インバウンド」(5.2兆円)、「住宅・家事代行にかかわるシニアサービス」(5.1兆円)、「家庭用蓄電池」(3.6兆円)などの順としている(図1)。

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図1:10年後の国内市場規模ランキング

 こうした新規市場の規模の推定は、(1)その市場の情報や知見が不足していること、(2)特定セグメントの市場規模データが存在しないこと、(3)現時点で市場自体が存在しないことなどから容易ではない。

 では、“見えない市場”をどう見通すか。秦は、市場規模予測に用いられる「フェルミ推定」と「ロジスティック曲線」について詳しく説明した(図2)。

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図2:”見えない市場をどう見通すか

 フェルミ推定とは、調査が難しくつかみどころのない数値を、いくつかの仮説をもとに推論を重ねて算出する手法である。一方。ロジスティック曲線とは、元来、生物の個体数が増加する推移を表す曲線で、はじめは徐々に増えるが、半ばで急激に増加し、その後、増加が徐々に穏やかになって上限に達する。商品の販売数など市場変動を予想するモデルとしても用いられる。

 秦はフェルミ推定の事例として、「20歳の日本人の人口」を推算して見せた。日本の総人口は約1億3000万人。平均寿命の80で割ると1歳ごとの平均人口が出る。少子化の影響で、この年代は平均人口よりも少ないと考えられることから、少子化係数を0.8と見なして計算すると130万人になる。これは実際の20歳の人口とほぼ適合する。

 同様に、「米国市場における紙おむつの潜在市場」を知りたければ、年間出生数×365日×1日当たりの年齢別使用数を0~3歳分合計すればよい。実際のマクロの顧客基盤から、自社が扱う商品・サービスが対象とするターゲットを捉え、利用回数・件数を掛けると件数ベース、単価を掛けると金額ベースの潜在市場規模となる。

事業の“立ち上がり”を見極める

 注意すべきなのは、こうして算出した潜在市場規模は最大値であること。また、1年目、2年目、3年目とどのように拡大するかを把握する必要がある。そこで使うのがロジスティック曲線だ。類似の製品・市場が過去にどのような経過をたどったかのデータなどから市場拡大を予測する。

 市場の立ち上がりをもたらす要素として秦は、(1)技術の性能向上とコスト低下、(2)ハードの充実や人材供給、(3)課金の仕組みなど事業インフラの普及と法規制の見直し、(4)革新的プレーヤーの登場という4つのポイントを挙げる。こうした要素が影響して潜在顧客が新規客になり、継続客になる。また、一部の顧客はやがて退出する。こうした顧客の動態も頭に入れた上で、市場規模を推計する。

 ただし、「重要なのはここから先」だと秦は強調する。予測した新規市場の中で自社はどの程度のシェアが取れるのか、競合他社はどのような動きをするかを予測し、最終的に自社の事業計画に落とし込む必要があるからだ(図3)。「売り上げの立ち上がりが予想以上に早い『アップサイドケース』、思い通りに進まない『ダウンサイドケース』までのシナリオを作っておくと、事業化するか否かを含めた経営の判断が容易になる」(秦)。

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図3:市場規模から売り上げ見通しへ

 最後に秦は、「市場の数値予測は大切だが、実際に開発に取り組み、事業を立ち上げ、会社の新しい事業の柱とすることこそ重要と指摘。「アイデア創出やビジネスモデル構築、社内・社外の巻き込みなど、直面する課題を乗り越えて事業開発を前進させてほしい」とエールを送った。