働き方改革とは、企業の“生命力”の増強

 皆さんの会社では、どのように働き方改革に取り組んでいるでしょうか。中には、長時間労働を禁止したり、就業時間帯をシフトしたりといった、割と分かりやすい対応をしている企業があるかと思います。短時間勤務を認めたり、在宅勤務を認めたりといったケースもあるでしょう。

 それはそれで、今までとは違う働き方を促すという意味で、一つの働き方改革ではあるでしょう。ただ、それが本質なのかというと疑問です。重要なのは、誰のための、何のための働き方改革なのか、最終的にどのような結果につなげたいのか、それを実現するための策を考えることです。

 こうしたことから日経BP総研では、従業員の「働きがい」に注目しています。従業員が仕事に張り合いを感じながら働き、それでいて、長続きしない無理な労働はしない。その結果として生産性を高める、あるいは高い生産性を維持していくことが大切なのではないかと考えているためです。

単なる就労形態の変化を越える「いつでも、どこでもワーク」

 先日、あるイベントでユニリーバ・ジャパンの取締役で人事総務本部長を務める、島田由香氏にお目にかかりました。ユニリーバが2016年から取り入れた、「WAA」と呼ぶ制度の立役者です。WAAは「Work from Anywhere and Anytime」の略で、文字通り、いつ、どこで働いてもいいという考えに基づいた就業制度です。働き方改革が叫ばれる中で、注目を集めている事例の一つでしょう。

 このとき島田氏が言っていたのが「皆が幸せになること」でした。それがWAAという手段を通じて目指していることです。働く場所、時間帯などの制約を減らすことで、効率的に、そして余計なストレスを抑えて働けるようする。生き生きと働ける環境を作って、従業員一人ひとりの生産性向上、そして従業員の会社に対する帰属意識・愛着心(エンゲージメント)の向上につなげていこうという考えです。

 もちろん、仕事に張り合い、つまり働きがいを感じる場面、理由は人それぞれです。そう考えると、従業員の働きがいが高まる環境づくりとして、やるべきことはもっといろいろありそうです。その参考情報を得るべく日経BP総研では、2017年6月15日~26日にかけて、働きがいに関する調査を実施しました。日経BPメディアの読者のうち、ビジネスパーソンを対象としたWebアンケートで、有効回答数は873(男性:341名/平均年齢48.5歳、女性:532名/平均年齢 39.2歳)でした。

想像以上に低い「仕事への満足度」、「延長線上」からの脱却がカギ

 調査結果を少し紹介しましょう。

 働くモチベーションアップにつながるものとしてトップになったのは、「給与が上がる」「仕事から達成感が得られる」(いずれも34.0%)。給与と達成感の両方を求めるビジネスパーソンが多いようです(図1)。

図1 働くモチベーションにつながるもの(優先順位の高いもの最大3つを選択)
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 男女別で見ると、回答率に明らかな違いが見られる項目がありました。例えば「自分のやりたい仕事ができる」ことがモチベーションアップに影響するとの回答は、男性が38.7%、女性が28.2%。「プライベートも充実させながら働ける」は、男性が20.5%、女性が32.0%でした。

 ただ、「給与が上がる」に関しては、5割弱の回答者が実感できていないと答えています。企業は、給与面で応えられないのであれば、他の面で従業員のモチベーションが上がる取り組みを考える必要がありそうです。

 ちなみに、勤務先に対する満足度を把握するために、「今の勤務先で働くことを、あなたの知人・友人に薦める可能性」を「10点:ぜひ薦めたい」から「0点:まったく薦めない」の11段階で尋ねました。その結果をもとに、回答者を「満足層(9~10点)」「中間層(7~8点)」「不満層(0~6点)」に分類し、今の仕事に対する意見を分析しました。

 結果は、知人・友人に対して薦めるかどうかの度合いでは、満足層はわずか6.1%。中間層を含めても29.0%に過ぎません。対象が家族・子どもとなると、状況はさらに悪く、満足層と中間層を合わせても22.4%にとどまりました。

図2 勤務先に対する満足度(周囲に薦めるかどうか)
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 この満足度別に、「今の仕事」に対する評価をみると、次のような項目で評価の差が大きくなりました(図3)。

  • 「プロジェクト開始から終了までの全プロセスに関わる」
  • 「アウトプットに対する評価・成果のフィードバックを受けている」
  • 「勤務先にとって重要な仕事である」
  • 「自分が興味・関心や強みを持つ領域に近い内容である」
  • 「異動や職種転換などの仕組みがあり、新しいことにチャレンジできる」
図3 満足度別の「今の仕事」に対する評価(複数回答可)
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このことから、組織に対する満足度をより高めるには、今の仕事の延長線上ではなく、任せる範囲を広げること、新しいことにチャレンジする機会を与えることが重要といえます。

企業の枠を超えた「新しい働き方」が“生命力”を高める

 新しいことにチャレンジする機会につながるものとしては、異業種を含む社外との交流、連携の自由度を与えることも、モチベーションアップに影響しそうです。自由に社外を歩き回れるようにすると、人材やアイデアなどのリソースを外部に求めやすくなるためです。従来のようにすべてを自前で開発/用意するのではなく、社外の知恵や人脈を生かせば、新しい価値を生み出せる可能性が広がります。新しい知見・知識に触れ、刺激を受けられる、まさに今までとは違う働き方を促します。

 実際、ユニリーバがWAAで目指していることにも、社外での交流の促進が含まれています。社外に対して門戸を開き、様々な知恵を取り込める力、いわば「開社力」(かいしゃりょく)を磨くことにつながるわけです。実はこうした、会社に新たな力を蓄えること、持っている力をさらに高めること、それを従業員が進んで実践し、維持していける仕組みをつくることこそが、働き方改革の目的であり、狙いであるべきではないかと考えています。

 こうして力を高め、蓄えていくことは、企業が市場を勝ち抜き、長きにわたって存続していくための「生命力」になります。ここで言う生命力は、生き抜こうとする力、育とう・伸びようとする力、逆境でも生き抜く力、悪いところを治そうとする力といったものです。それを企業などの組織に当てはめてみると、ほかにもいくつかの“力”が挙げられます。それにあえて名前を付けてみました。例えば

  • 貴礎力(きそりょく)
    企業を運営していくうえで礎となる役割や人材、技術を見極め、それを大切にしていく力
  • 昇心力(しょうしんりょく)
    従業員の気持ちを把握し、働くことの張り合いや充実感を感じさせる仕組みを整え、維持していく力
  • 育人力
    若手はもちろん、中堅やベテランでもキャリアアップ、スキルアップできるよう支援・指導する力
  • 改善力
    業務プロセスなどの、課題を見つけ出し、改善していける力
  • 構想力
    長期ビジョンなどを、人々の気持ちを引きつけられるようにまとめ上げる力

 必ずしもすべての力を備える必要はありません。企業の年齢、規模、活力(業績)、体力(資金力)などによって、持つべき力は変わってきます。大切なのは、周囲の環境(ビジネス環境)や健康状態からみて、そのとき重視すべき生命力と、その力を高めるための施策を考えることです。

 日経BP総研では、この組織の生命力に着目し、民間企業はもちろん、自治体などの公の組織の活動を支援していきたいと考えています。