今、日本中の会社で、「働き方改革」が喫緊の課題となっています。きっと、あなたの職場でも「残業はするな、部下にさせるな、ただし、売り上げは落とすな」という経営側からの”お達し”がきているのではないでしょうか。「いったいどうすればいいんだ…」と頭を抱える管理職がたくさんいるでしょう。一方、経営者側も、労基法違反にならないよう残業時間削減の旗を振るものの、本音の部分では、労働時間という資源が減ることで売り上げも縮減してしまわないかと大いに懸念しています。

 急ごしらえの「働き方改革」による弊害がそこかしこで散見されます。いったい何をKPIとすればよいのか、どの課題から手をつけたらいいのか、PDCAをどのように回していくのか、様々な混乱が生じているのではないでしょうか。

 「働き方改革では、長時間労働是正のように『働く時間』など仕事の外形的、形式的側面を問題とします。一番改善されるものは『働きやすさ』であろうと思われますが、それだけでは労働生産性向上は難しい。それと同様に、仕事の内容的側面としての『働きがい』が重要なのです。厚生労働省の調査でも、『働きやすさ』よりも『働きがい』が業績に結びつく率が高くなっています」と指摘するのは、我が国のリテンションマネジメント研究の第一人者の青山学院大学経営学部教授の山本寛氏です。

 働きがいとは何で表されるかというと「エンゲージメント」(仕事への熱意度)だそうです。このエンゲージメントの向上こそが、生産性、売上高に影響を与えると山本教授は語ります。しかし、さまざまな国際比較調査からみても日本のエンゲージメントは世界最下位ランクです(米ギャラップ社の従業員のエンゲージメント調査では、「日本は熱意あふれる社員の割合が6%しかおらず、調査した139カ国中132位と最下位クラスだった」という結果になっています――日経電子版17年5月26日)。つまり、日本はエンゲージメントが低く、働きがいを感じる社員が少なく、「ぶら下がり社員」「中だるみ社員」が発生しやすい国と言わざるを得ません。

 「人は新しいことに挑戦したり、重要な仕事を任されたりして前向きな見通しが獲得できたときに働きがいを感じます。しかし、日本では仕事に停滞感を持つ人が多いですね。日本の企業の場合、人員抑制や人手不足等により、多くの企業でジョブローテーションが停滞しており、一つの部署で長くいる塩漬け人材が発生したり、中堅社員や管理職は自分の能力を超えた過大な仕事が与えられて手一杯であるなど、働きがいを獲得できない状態が多く見られます」(山本教授)。

青山学院大学経営学部教授の山本 寛氏
銀行などに勤務し、大学院を経て現職。著書に『人材定着のマネジメント―経営組織のリテンション研究』(中央経済社)他、多数。最新刊は『「中だるみ社員」の罠』(日経プレミアシリーズ)

 では、それを改善するにはどうしたらよいのでしょうか。
「トップマネジメントサポート(能力開発の重要性認識など)、メンタリング、ジョブローテーション、社内人材公募制度、副業解禁などが効果的だといわれています。人が働きがいを感じ続けるのは難しく、ぶら下がり、中だるみ社員は必ず生まれる。しかしそれを脱却しないとイノベーションも新たなビジネスモデルも生まれてきません。組織は次々と新しい施策、工夫を続ける必要がある。いろいろな施策を導入して常に新しい刺激のもとに従業員を置くことで、組織全体の働きがいは促進され、エンゲージメントは向上する。組織に望まれるのは、戦略的に施策を展開する努力だと思います」

 つまり、残業時間削減など仕事の外形的側面だけなく、仕事のそのもの、仕事のあり方をどうするかという議論が大切なのです。

 日本の企業に重要なのは、高い帰属意識、貢献意識を持ち、働きがいを感じる従業員が組織に1人でも多くいることです。しかし、単に残業時間を減らすことを主眼に置いた「働き方改革」だけでは効果が限定的です。そのためには、新たな経営戦略、人事戦略を策定することが必要です。メンバーシップ型からジョブ型への移行、職務の明確化、透明な評価制度、報酬、キャリアパス、キャリアコンサルティングなど、多角的なシステムの変革が求められています。

 日経BP総研では、従業員の働きがいを創出して生産性を向上し、企業の成長に結びつく真の「働き方改革」をテーマに、2017年11月より1年間の「働き方改革フォーラム」(委員長:山本寛教授)をスタートさせます。調査・診断等で自社の課題を把握、年間12回の先進事例研究会で自社に最適なKPI設定、行動計画策定支援を行います。詳細は本フォーラムのページ(http://business.nikkeibp.co.jp/nbs/nbsemi/workstylel2018/)をご覧ください。