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CFA流『さんない』投資塾ライフ

第58回 社会的インパクト投資の可能性

2015.09.04

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世界的な金融アナリストの資格であるCFA。日本でプロとして活躍中の現役バリバリCFAの有志が日経マネーの読者に向けて、毎月交代でコラムを執筆します。初心者や投機や短期投資のみが投資だと思っている方に、本当の投資、資産運用を知っていただきたいと思います。合言葉は、「急がない、やめない、無理しない」。毎月1回の更新です。
CFAって何?という方はこちらからどうぞ。→ ごあいさつ

サノフィ株式会社 ファイナンス部
野村国康, CFA





社会的インパクト投資とは?

 2013年のロンドンG8サミットにおいて、国際社会が直面する社会課題の解決のために、ファイナンスの力を活用しようという取り組みが開始され、各国の国内委員会で、その普及のための活動が行われています。日本においても、今年5月、社会的インパクト投資タスクフォース国内諮問委員会から提言書が出されました。

 この提言書では社会的インパクト投資を「社会課題を解決しながら経済的利益も同時に生み出す投資行動」と定義しています。従来の一般的な投資が経済的リターンという一つの物差しで成果が測定されるのに対して、社会的インパクト投資では、経済的なリターンに、投資された事業やプロジェクトがもたらすポジティブな社会的インパクトを加えて投資の全体の成果としよう、という考え方です。すなわち、投資活動を通じて経済的リターンと社会的リターンを両立させるための仕組みを作っていこう、という取り組みです。


「社会的インパクト投資の拡大に向けた提言書」(2015年5月29日) P8


7つの提言とは?

 「社会的インパクト投資拡大のための提言書」で取り上げられている7つの提言を、具体的に見てみましょう。それらは以下の通りです。


「社会的インパクト投資の拡大に向けた提言書」(2015年5月29日) P4

 休眠預金の活用は、10年以上眠ったままになっていて預金者と連絡がとれなくなった預金口座の資金を銀行の利益として処理するのではなく、社会的インパクト投資に振り向ける仕組みです。現在、法制化一歩手前まで来ており、7つの提言のなかでは一番実現性が高いものです。法律が制定されると年間およそ800億円といわれる資金が供給され、社会的インパクト投資の起爆剤になると期待されます。

 ソーシャル・インパクト・ボンドは、社会的リターンとして設定した条件を満たした時に、社会的成果に基づいて投資家に経済的リターンを還元するという投資の仕組みで、行政が予算をつけにくいが、社会的な課題解決につながる事業を民間の投資によって実施することができるものです。社会的インパクト投資を担うプロダクトとして期待されていますが、先行する英国などの事例を見ても、社会実験の域を超えておらず、市場に受け入れられる投資商品となるためには、まだ試行錯誤がありそうです。

 社会的事業の認証制度は、社会課題に新たな視点で取り組もうとするいわゆる「社会的企業」に対する新たな法人形態を作ったり、何らかの形で認証して投資家から「見える化」する仕組みです。英国のCommunity Interest Company、米国のLow Profit LLCなどがお手本です。

 社会的投資減税は、言葉が示す通りで、減税という経済的なインセンティブによって投資資金の流入を促す仕組みです。

 社会的インパクト評価の浸透は、「社会的インパクト」という分かりにくいものが、投資家にきちんと説明されて理解されることを担保する仕組みです。社会的インパクト投資を一般的なものにしていくうえでも、重要になると思います。また、休眠預金の800億円をどう配分し、どのような物差しでその成果を図るかという観点から、客観性のある評価を定型化して、手法を確立していくことが望まれます。

 受託者責任の明確化は、社会的インパクト投資を普及させるために、機関投資家や個人投資家から運用を委託される運用機関が担う受託者責任の前提として、経済的なリターンを最大化させる行動のみではなく社会的なリターンも含めるべきだと主張しているように思います。しかし、仮に社会的リターンのインパクトが明確に評価できたとしても、社会的リターンと経済的リターンを同等に見る、あるいは経済的リターンよりも社会的リターンを優先させる、ということであるとすれば、これは委託する側である投資家の明確な意思表示を前提に行われるべきものであると思います。

 個人投資家の充実は、そもそも社会課題への投資を担う主体となるべき個人投資家が不在では、社会的インパクト投資が盛り上がるはずもありませんので、山を動かすために、政府も資金仲介機関も、社会的企業も、もっともっと個人にアピールしていこう、という提言です。具体的には、特に優先すべき課題として、「個人投資家向けの情報プラットフォームの構築」が提案されています。社会課題、それに対する取り組みとその結果を個人投資家にアクセスしやすくすることで、個人投資家が社会的インパクト投資に関わりやすくなるようにすることは大切だと思います。


社会的インパクト投資の広がりのために

 7つの提言は、いずれも単一で成果を生むものではなく、連携して社会的インパクト投資の市場のベースになると考えられますので、全体として進めていくことがカギになると思います。例えば、休眠預金の資金が社会的インパクト投資に向けられる時代が来れば、社会的インパクト投資への資金供給が一気に膨らむことになります。一方で、社会的インパクトをいかに客観性のある形で評価できるか、という問題はとても重要で、しかも難しい問題です。投資する側にとっては「社会的インパクト」の適切な判断力、投資される側にとっては、実現性のある「社会的インパクト」を適切に示して、それを実行し、また成果を示す能力がなければ、休眠預金の800億円をうまく活用することはできないでしょう。


「社会的インパクト投資の拡大に向けた提言書」(2015年5月29日) P10

 上図に示されるように、社会的インパクト投資の市場には、資金の需要側に「インパクト指向型組織」、供給型に「インパクト資本チャネル」が存在し、それらの組織がさまざまな社会課題の発見と解決、また、そのための「資金調達の形態」を作り出していこうとしています。今回の提言の実現によって、こうした取り組みをサポートする投資環境が整ってくれば、日本の年金や金融機関、そして個人投資家の資産の一定割合を社会的インパクト投資に向ける時代が、近い将来やってくるかもしれません。

(参考)
「社会的インパクト投資の拡大に向けた提言書」(2015年5月29日) 
http://impactinvestment.jp/doc/socialimvestment-proposal150529.pdf

G8インパクト投資タスクフォース
http://impactinvestment.jp/about/

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