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FP快刀乱麻

生活設計にもBCPの視点を

2016年10月5日(水)

 東日本大震災はまだまだ終わっていない。改めてそのことを突き付けられたのは、映像製作会社SORA1代表の田中敦子さんが自費で制作されたDVD「被災地の水産加工業 経営者たちの戦いの記録」を見た時でした。上映後のトークショーで田中さんは、「テレビ局などの大手メディアは分かりやすい涙と感動を求め、本当のことを伝えないので、それなら自分が記録に残すべきだと感じた」とおっしゃいました。

 田中さんは2011年4月から、宮城県と岩手県の沿岸部で被災した中小水産加工業5社を、定点観測の手法で撮り続けています。2014年に完成した全5巻(+ダイジェスト版)のDVDは、大学や図書館からの引き合いが多いと言います。当初は想定していなかったようですが、中小企業のBCP(事業継続計画)の教材にもなるということで、中小企業診断士の方たちが推奨してくださっているそうです(参照はこちら

 BCPとは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続、あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のことです(出所:中小企業庁のウェブサイト)。

 BCPの視点は一人ひとりのライフプランにも重要です。災害、病気、収入減、失業、親の介護など、人生にはあまり起きてほしくない出来事がいくつも待ち構えています。できるだけそれらが起きないように回避するための対策を取るのは当然ですが、個人の努力だけではどうにもならないこともあります。そのような場合に備えてリスクを洗い出し、起きてしまった時の損害額を経済的な数値にし、リスクごとにふさわしい対処法を考え、準備をしておくことが大切です。

 例えば、「日本列島はどこで大地震が起きても不思議ではない」と言われます。耐震性の高い建物を建てることはもちろん重要なことですが、どんなに構造がしっかりしていても津波で建物全体が浸水したり、地震火災による延焼に巻き込まれたりするかもしれません。公的な支援が限定的である以上、地震の備えは自助努力が原則。地震で住まいが甚大な被害を受けると、ライフプランへの影響は計り知れません。地震保険加入は必須です。

 田中さんは「経営者たちの戦いの記録」の5年後の「今」を撮っています。たとえ補助金が受けられても再起には多大な資金を必要とし、震災前の借金との二重ローンを抱えた中小企業がほとんどで、最長5年の返済猶予の期限を迎えると倒産する企業も出てくると言われています。

 個人のライフプランにおいては、借金でモノを買うことはできるだけ最小限にし、住宅取得に際しても、背伸びはせず、無理なローンは組まない。ゆとりがないのであれば、しばらくは賃貸を続ける判断も必要です。

 大災害が起きて住まいが被害を受けた時、被害の程度などに応じて国から被災者生活再建支援金(支給限度300万円)が受け取れますが、それは賃貸住まいの方も対象です。借りている住まいが被害を受けても、住宅ローンがないので移り住んで暮らしの再起を図ることができます。もし、地震保険に加入していれば家財に対して保険金が支払われますから、引っ越し先での家財道具の購入に充てられます。

 持ち家にせよ賃貸にせよ、住まいは命を預ける場所なので、建物の構造や住む地域のハザードマップ(危険予測地図)で浸水や地震などのリスク度合いを確認しておくことは最も重要なことです。「どうせ災害なんて来ないだろう」「自分だけは大丈夫」という根拠のない楽観は禁物です。

このコラムについて

 このコーナーは、日経マネー本誌やTV、新聞等でもおなじみの著名ファイナンシャル・プランナー各氏が毎週交代で執筆する辛口コラムのコーナーです。今の金融界をズバッと斬る直言から金融制度や消費者への提言、最近の金融ニュースの注目ポイント、またFPならではの役立つノウハウまで、幅広い内容を取り上げていきます。更新は隔週水曜日です。

内藤 眞弓(ないとう・まゆみ)
内藤 眞弓

 ファイナンシャルプランナー・CFP認定者。大手生命保険会社勤務の後、FPとして独立。現在は金融機関に属さない独立系FP会社「生活設計塾クルー」のメンバーとして、生活設計や資金運用、保障設計などの相談業務、各種団体のセミナーや講演を行う。日経電子版『医療保険特集』連載中。生活設計塾クルーでは毎月マネーセミナーを行っている。詳細はWebサイトで。個人の活動としては『日本の医療を守る市民の会』で毎月勉強会を開催中。


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