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FP快刀乱麻

海外不動産の相続に関わる落とし穴

2016年5月16日(月)

 マイナス金利の導入で、個人投資家も資産運用を見直さなければならなくなった、といわれています。実際のところ、マイナス金利で何かアクションを起こしたという個人は限られているように見受けられますが、積極的に動く個人投資家の中には、次なる投資先を模索している人もいるでしょう。

 マイナス金利に加えて、株価の上昇も見込めないということから、海外の不動産に目を向ける人が増えることも予想されます。特に地理的に近いタイ、フィリピン、マレーシアなどアジアの新興国は、今後の経済成長や人口の増加で不動産価格の長期的な上昇が期待できるとして、個人投資家の注目を集めているようです。すでに、数年前から新興国への不動産投資を推奨する専門家や、新興国不動産投資のアドバイスをするファイナンシャルプランナーも見かけるようになりました。セミナーや現地視察ツアーなども行われています。

 一方で、安易な海外不動産投資に対して注意を促す声も多く聞かれます。

 海外の不動産はなんといっても情報量が少ないです。割高なものを買ってしまうとか、多額の手数料をとられる、といったケースはあるでしょう。建築基準が日本ほど厳しくないので、購入した建物の修繕費用がかかったり、場合によっては地震などの自然災害で大きな被害を受けたりする可能性もあります。

 政変や政治情勢の変化で不動産に対する規制が強化されたり税制が変わったりすることも考えられるし、悪徳業者にだまされることもあるかもしれません。不動産投資で利益を得ても、為替で差損が生じることも考慮に入れる必要があります。海外不動産への投資では、様々なリスクを想定しておかなければなりません。

 注意すべき点として、もう一つ付け加えたいと思います。それは“相続”です。

 海外にある資産の相続については、現地の法律や制度に従って、遺産分割や相続税の納税を行わなければなりません。もっとも相続税はない国の方が多く、シンガポールやマレーシア、インドネシアなどは相続税がありません。相続で問題になるのは、相続税よりも遺産分割や相続した資産の名義書き換えにかなりの手間と時間がかかることです。

 米国、英国、カナダ、オーストラリア、シンガポール、マレーシアなどでは、相続人が遺産を受け取って名義を書き換えるためには“プロベート”という法律上の手続きが必要です。これは、裁判所の検認のことです。国によって細かい手続きは異なりますが、「相続人が現地の裁判所に申し立てる→申し立てを受けた裁判所が遺産管理人を指名する→遺産管理人が遺産の調査と価格の査定を行う→遺産を分割する→遺産を受け取った人が資産の名義書き換えを行う」といった流れになります。申し立てから名義書換えまでには数年かかるケースもあるといいます。

 国内の不動産でも、所有権移転登記などは司法書士に依頼するのが一般的ですから、海外でのプロベートの手続きを日本に住んでいる相続人が自力で行うのは非常に難しいといえます。そうなると、現地の専門家に手続きを依頼することになり、かなりの手数料がかかることは覚悟しておかなければなりません。裁判所への申し立てには様々な書類が必要で、それを現地語または英語に翻訳する費用や、相続人が現地の裁判所へ出向く費用などもかかります。

 資産を保有する国にプロベートが必要でなかったとしても、相続の手続きは日本とは違うので、その方法を調べたり実際に手続きしたりするには、時間も手間も手数料もかかるでしょう。

 というわけで、安易に海外不動産に投資すると、万一のとき、相続人となる配偶者や子に大きな負担を強いることになるのです。資産が日本国内にしかない場合でも、相続人が被相続人の資産を洗い出すのに苦労するケースは珍しくありません。ましてそれが海外にもあるとなると、調べるのに時間がかかるだけでなく、海外資産の存在そのものが確認できないということも考えられます。

 相続はいつ起こるか分かりません。海外の不動産に投資するときは、万一のときのことまで考えて、財産目録や遺言書を作成し、現地の法律や税制を調べておき、必要があれば専門家に相談して、相続や遺産分割がスムーズにできる方法を検討するといったことも必要です。

このコラムについて

 このコーナーは、日経マネー本誌やTV、新聞等でもおなじみの著名ファイナンシャル・プランナー各氏が毎週交代で執筆する辛口コラムのコーナーです。今の金融界をズバッと斬る直言から金融制度や消費者への提言、最近の金融ニュースの注目ポイント、またFPならではの役立つノウハウまで、幅広い内容を取り上げていきます。更新は隔週水曜日です。

馬養 雅子(まがい・まさこ)
馬養 雅子

 オフィス・カノン代表。ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)、一級ファイナンシャルプランニング技能士。金融商品や資産運用などに関する記事を新聞・雑誌等に多数執筆しているほか、マネーに関する講演や個人向けコンサルティングを行っている。「図解・初めての人の株入門」(西東社)、「キチンとわかる外国為替と外貨取引」(TAC出版)、「明日のことが不安になったら読むお金の話」(中経出版)など著書多数。


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