何が、学習者に難しいと感じさせるのか?

 これまでのアンケートで全体でも4.5以上の評価を重ねてきた研修なので、完成度も高く、抜本的な改訂は必要ないように思えます。

 そこで研修のスライドを一枚目から眺め、私が話している内容とその時の学習者の反応について考えました。

 研修のイントロでは、「学習の目的」を伝えます。

 その次に、これまで受講した人の感想を紹介してきました。

「この研修を受けた人たちは、こんな感想を述べていましたよ。」

と伝えることで、受講者に「実践で活用できる内容を2日間学べるんだな」と意識してもらえるように紹介してきました。

 紹介するということは、こちらが一方的に話をしていることになります。

 これまでは問題がないと考えていた「掴み」の部分ですが、もっと受講者が能動的に、「双方向のコミュニケーション」をする必要があるのではないか、ARCSモデルのA「注意」(面白そうだなぁ)と感じてもらう工夫が必要ではないか、と考えました。

 そこで、「これまでの受講者の感想」を紹介する時間を割愛し、受講者と会話する場面を設けることにしました。

「これまでに課題を管理する××のようなことで困った体験をした人はいますか?」

 数名に質問を投げかけ、ご自身の体験を紹介してもらいます。

 「続いて、リスクに関する課題を事前に対策していなかったために苦労した体験のある人は?」

 また数名に体験を紹介してもらいます。

 次にプロセス思考を適用しているマネージャが、どのような質問を投げかけて意思決定しているかを私から簡単に紹介しました。

 この受講者との会話型のイントロによって、

 「みんな問題解決では苦労した経験がある。プロセス思考を適用すると合理的な問題解決につながるかもしれない。」と感じてもらい、能動的な学習につながることを期待しました。

 このような見直しをした上で、今年2回目のB-CEP研修を行ないました。見直しの対象としたアンケート項目「内容のレベルは、あなたにとって適切でしたか?」の設問の回答結果は、「(1)低かった」はなし、「(2)適切だった」92%、「(3)高かった」8%に改善し、目標とした(2)の回答90%をクリアすることができました。

 研修内容そのものは変更せず、イントロを変更したのみでこれだけアンケート評価が変化した事には、私自身も正直驚きました。

 アンケート様式の変更が、研修の見る視点を変え、研修内容のブラッシュアップと私自身の成長につながった出来事でした。

 見直しに役立ったのが、研修の運営を「見える化」している「ストーリーボード」です。

 ジェリー・ワイズマンの著書「パワー・プレゼンテーション」(ダイヤモンド社刊)には、このストーリーボードについて以下のような記述があります。

 各ツールを見ていく前に大切なことがある。一歩下がって、プレゼンテーションの流れをチェックし、全体を吟味することだ。このとき図(省略)に示したストーリーボードを活用するといいだろう。

 テレビや映画のディレクターが作品を考えるときに、ストーリーボードという方法を使う。これは60秒のコマーシャルであろうが、何億円もかけた大作映画であろうが、同じである。ディレクターは、各場面のカメラアングルなど細かい点まで決めた後、個々のシーンを1つの流れとしてどう一体化させるべきか、ストーリーボードを使ってあれこれと考えをめぐらせる。

 映画では、ディレクターが鑑賞者にメッセージを伝え、共感してもらうために、研修では、インストラクタが受講者に目的に合致した学習をしてもらうために、そして、OJLでは、OJLの指導者が学習者に対して「仕事を通じて学び、成長してもらうために、グランドデザイン(全体のカリキュラム)を描き、1つの流れとしてつながるよう「ストーリーボード」を作成して、考えをめぐらせます。

安藤 良治(あんどう・よしはる) PSマネジメントコンサルティング 代表
安藤 良治

 1956年生まれ。メーカー系ソフトベンダに入社し、27年間教育、採用、組織・人事と人事畑一筋に歩んできた。その間、インフォーマルグループ“夢現会”を社内に立ち上げ、社員の自立化、第一人称で自社を語る人財の育成に力を注ぎ、人事部長を経て2005年に独立。独立後は、仲間と実践的な問題発見・開発技法「創造的実行プロセス(B-CEP:ビーセップと呼ぶ)」の開発と普及を柱に、プロジェクトマネージャー能力強化研修、ビジネスアナリシス実践研修、ITリーダー研修、ITシミュレーション研修、PBL型新人研修(3ヶ月)の運営責任者等を担当している。また、NPO法人ITスキル研究フォーラムの人財育成コンサルタントとして“人財育成のツボ“の情報発信や、一般社団法人IT人材育成協会(ITHRD)において「ラーニングファシリテータ育成」プログラムの開発と普及活動を行い、主としてIT業界の人材育成に注力した活動を行っている。

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。