学習効果を上げるためには指導者は何をすればよいか

 学習者の内側の変化は、学習の情報処理理論として1968年にアトキンソンとシィフリンによって提唱されました。

 外的な刺激を受けた学習者は、「受容器」や「感覚登録器」を通していったん「短期記憶」に収めます。「短期記憶」は容量に制限があり、放っておくとすぐに消去(忘れる)されます。このため、重要なことは反復や符号化などにより、「長期記憶」に登録することです。

 記憶したことを使えるようにするためには、長期記憶に留めた情報を必要なときに短期記憶に呼び出し、「実行制御」によって記憶した情報を編集加工して、「効果器」を介して「受容器」にフィードバックします。この際、うまくフィードバックできるかどうかは、学習者のその学習内容に対する「期待感」が大変重要な役割を果たします。

 ガニエは、この「学習のプロセス」を効果的なものとするために、指導者は外側からどのような刺激「教授事象」を与えるべきかを定義しました。
「導入」では、「受容器」への刺激を確実なものとする。適切な「期待感」を持たせる。長期記憶から以前に学んだ内容を取り出す
「情報提示」では、新しい事項を提示する際、教材を工夫して「感覚登録器」への刺激を与え、学習の指針を与えることで短期記憶から長期記憶に留める
「学習活動」では、長期記憶に留めた学習内容をいつでも取り出して、パフォーマンスを発揮できるように反復する
「まとめ」では、学習成果を公平に評価することで学習の「期待感」へのフィードバックを行い、多様な実践の機会を通じて学習内容を確実に使えるものにする

 ガニエの9教授事象は、全ての学習者に9つのステップが必要と言っているわけではなく、学習者に応じてステップを省略しても良いとしています。これは、学習者ごとに「期待感」が異なり、また知識も異なることから、その学習者に適応した教授事象で組み立てよ、ということのようです。

 必要なことは、教える側の自己満足で組み立てず、学習者の「学習のプロセス」を確実に回して、「使える」ようにすることです。

 学習の世界もこのように研究が進み、短時間で多くの学びを吸収することが科学されています。職場の社員も「早期の戦力化」が求められている中、職場任せの育成でなく、科学されたOJL(On the Job Learning)の文化を導入されては如何でしょう。

 学習者の成長のみならず、指導者の成長につながることが期待できます。

 「学習のプロセス」は、ITHRDのホームページ(http://www.ithrd.jp/index.php/blog/ojl/94-itlfganie)で確認することができます。

安藤 良治(あんどう・よしはる) PSマネジメントコンサルティング 代表
安藤 良治

 1956年生まれ。メーカー系ソフトベンダに入社し、27年間教育、採用、組織・人事と人事畑一筋に歩んできた。その間、インフォーマルグループ“夢現会”を社内に立ち上げ、社員の自立化、第一人称で自社を語る人財の育成に力を注ぎ、人事部長を経て2005年に独立。独立後は、仲間と実践的な問題発見・開発技法「創造的実行プロセス(B-CEP:ビーセップと呼ぶ)」の開発と普及を柱に、プロジェクトマネージャー能力強化研修、ビジネスアナリシス実践研修、ITリーダー研修、ITシミュレーション研修、PBL型新人研修(3ヶ月)の運営責任者等を担当している。また、NPO法人ITスキル研究フォーラムの人財育成コンサルタントとして“人財育成のツボ“の情報発信や、一般社団法人IT人材育成協会(ITHRD)において「ラーニングファシリテータ育成」プログラムの開発と普及活動を行い、主としてIT業界の人材育成に注力した活動を行っている。

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。