安藤 良治
ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタントPSマネジメントコンサルティング 代表

 「自分がただ教えているだけで教育をしていなかったことに気付いた。学習者のことをきちんと見ず、『どうすれば学習する気になるか』など考えていなかった」

 これは、先日行った職場指導員研修の研修終了後、ある受講者が提出したアンケートの一文です。この文章を見て、私は大変嬉しく思いました。

 この指導員は、後輩に対して指導する内容を計画し、目標を定めてその計画に従って「学習者を指導」していたようです。しかし、学習者の学習は思うように進まず、指導計画通りに進みません。「何故?」という疑問を持っていた時期に「指導員研修」を受講することになり、そこで「指導計画で前提とした『学習者モデル』と『実際の学習者』のギャップ」に気づきました。

 「このまま当初の指導計画を進めても、期待する成果は上がらない!学習者のことをきちんと見なければ…」

 研修を機に指導員が個々の学習者に向き合うようになってくれたならば、研修の意義が高まります。このようなコメントを読ませていただくと、講師冥利に尽きる思いです。

「入社3年間で一人前になる」という抽象的な学習目標を
ラーニングオブジェクトで整理する

 指導者に選ばれた方は、学習者の到達目標を定め、その目標達成のための指導計画を策定することが必要です。前回も「教案設計」をテーマに
(1)指導する目標、目的を明確にする
(2)学習者のモデルを確認する
について紹介しました。

 学習者は、一人ひとり「自我」という名の個性を持ち、所有するスキルも異なれば価値観も異なります。「個々の学習者と向き合って『指導計画』を立てることが重要!」なのは確か。しかし、一人ひとり個別に一から「指導計画」を策定して、「学習内容」を用意することは、大変手間がかかると同時に、「学ばせる文化作り」の標準化が難しくなります。何とか標準化の実現と個別の学習者への柔軟な対応を可能にしたいものです。

 そこで今回は、「ラーニングオブジェクト」という概念を用いて「学習内容」を整理する方法をご紹介します。ラーニングオブジェクトを定義することが、学習者モデルに沿った「学習内容の策定」と「個別の学習者に対する学習内容の軌道修正」を実現するにつながります。

 「ラーニングオブジェクトを用いて学習内容を整理する」とは、
学習範囲全体を表した「コース」を定義した後に、その構成要素である「レッスン」「ラーニングオブジェクト」「ラーニングアクティビティ」「学習要素」に分解し、組み合わせることによって、学習内容を整理していこう
とするものです。

 例えば、「入社3年間で一人前になる」という抽象的な学習目標が設定された場合、この表現だけでは何をどう学習して良いのか分かりません。「一人前の条件」を具体的に落とし込むことで、はじめて学習内容が決まってきます。一人前の条件として、「問題解決能力、コミュニケーション能力、対人関係能力が設定水準以上であること。さらに担当業務分野の知識A、B、Cがそれぞれ設定水準以上であること」と定義したとしましょう。これら全体を学習することが、入社3年間に学習する「コース」となります。