有名な「レンガ積み職人」の寓話の一人目の職人の回答を思い出します。

 一人の職人に、何をしているのか尋ねました。
「見ればわかるでしょう。レンガを積んでいるんですよ。こんな仕事はもうこりごりだ」

 寓話では、二人目、三人目の職人が出てきます。

 次の職人に同じことを尋ねると、
「レンガを積んで壁を作っています。この仕事は大変ですが、賃金が良いのでここで働いています」
 三人目の職人にも同じことを尋ねると、
「私は修道院を造るためにレンガを積んでいます。この修道院は多くの信者の心のよりどころとなるでしょう。私はこの仕事に就けて幸せです」

 指導者であれば、学習対象者が三人目のレンガ積み職人のように、目を輝かせて自分の仕事を語ってほしいと思うのではないでしょうか。

 以前に、私はあるメーカーの入社3年目社員を対象にした2日間の研修を担当しました。この研修では「巻き込み力の強化」をテーマにステークホルダーの洗い出し、ステークホルダーへの対応、コミュニケーション、マーケティングの5Cなどを学習してもらいました。

 マーケティングの5Cとは、自社、顧客、競合の3Cに、顧客の顧客、顧客の競合の2Cを加えた5つのCで「自分の仕事の役割」を見直そうという学習です。このテーマでの学習の際、先ほどの「三人のレンガ積み職人」の寓話を紹介しました。

 そして、受講者に尋ねました「今、自分の仕事を紹介するなら、どちらかと言えば三人目の職人の回答に近いという人は手を挙げてください」

 数人が手を挙げました。私は手を挙げた人に尋ねました。
「○○さんは、どんな仕事をされているんですか?」
「私は、水処理施設に使うある装置の設計を担当しています。私の仕事は、市民が安心して美味しい水を飲める、そんな施設の働きに貢献しています」
「そうですか。○○さんは、そんな仕事に就けて…」
やや照れながら彼は回答しました。「幸せです」と。

 思わず私は拍手をし、それにつられるように受講者全員が拍手をしました。この発言が、他の受講者に良い刺激を与えたのは確かなようです。
「自分も同期の前で、胸が張れる仕事をしていると言いたい!」

 そして、この後に取り組んだマーケティングの5Cのワークは、みんな真剣に顧客の顧客について思いを馳せ、自分の取り組んでいる仕事の意義や役割をまとめていました。

 この研修では、最後に「巻き込み力の強化策」についてグループで話し合い、その発表を全員の前で行いました。その発表は代表者だけの発表ではなく、一人ひとりが今後取り組んでいくことを宣言します。ある人はその宣言の中で言いました。
「私は『5C』、特に顧客の顧客のことを意識して取り組んでいきます」

 仕事の目的を伝える、その仕事の先にいる「顧客」そして更にその先の「顧客」にどんな役割、貢献をしているのかを知ることが、動機付けに大変重要です。

 「教案設計」の最初に取り組むべきことは、「仕事の目的を明らかにする」ことであり、そこから具体的な手段へと展開していきます。