受講姿勢の評価は学習環境を壊す

 次に学習環境における「安全」という面からの考察です。脳は過度なストレス状態にある時は効果的に学習できません。効果的に学習していただくためには、基本的にリラックスして学べる環境が必要です。もちろん適度な緊張感は必要なのですが、それはゲーム感覚で楽しめるレベルでの競争的な要素、自身が設定した目標に向けて前進すること、限られた時間内にタスクを完了させようとすること、などを意味していて、決して、自尊心を傷つけられたり、失敗したことによって恥をかいたり落ち込んだりすることではありません。

 また、新しい知識やスキルを習得する過程においては、試行錯誤や失敗から学ぶ時間やプロセスも重要です。そうした効果的な学習が可能な環境をつくりだすためには、講師とはもちろんのこと、周りの参加者との信頼関係も重要な要素です。自由に考えを発言し、お互いにそれを受け入れ、議論しながら向上していく、というような安心して発言できる環境が必要なのです。

 そこに「研修中の発言を評価の対象とする」という考えを持ち込むと、どうなるでしょうか。まず、発言内容が評価されるので自由な発言がしにくくなり、試行錯誤や失敗から学ぶことが難しくなります。また参加者同士が共に学ぶ仲間というより、評価される際に比較される対象になってしまいます。これは「安全な学習環境」をつくるという方針とは逆ともいえることなのです。

「研修はイベントではなくプロセスである」という視点

 最後に、研修を行う目的はどこにあるかという視点です。研修は、その当日だけに着目すればイベントだといえます。ですが、本来は、研修が始まるずっと以前からニーズ分析や企画が行われていて、この事前の準備が重要であることにはどなたも異論はないでしょう。同様に、研修終了時点で終了なのではなく、研修に参加した方々が職場に戻って実践し、業務上何かしらの成果を出すことが本来の目的ですから、終了後も重要です。つまり、研修当日のイベントだけに目を向けるのではなく、前後も含めたプロセスとして捉えて企画し、実施し、効果測定を行っていくことが求められています。

 研修当日の参加者の様子というのは、イベント当日の様子ということになります。参加者の皆さんの成長やビジネス上の成果を求めるのであれば、当日の様子ではなく、研修後の効果測定、成果の測定の方がはるかに意味のある指標です。

 以上3つの観点から、研修参加姿勢を評価するという矛盾について考察しました。もちろん研修の内容によっては講師が参加者を評価するケースもあります。例えばプレゼンテーションスキル研修などの場合、一人ひとりのプレゼンテーションについてのフィードバックやアドバイスを行うことは、研修デザインの一部になりますが、それは上記の「参加姿勢を評価する」とは意図も性質も異なるものだと思います。

 カーク・パトリックの4段階の効果測定のフレームワークなども考慮し、本当に何をいつ測定するべきなのかをしっかり見極める一助になれば幸いです。

中村 文子(なかむら・あやこ) ダイナミックヒューマンキャピタル株式会社 代表取締役
中村 文子

 大阪府出身、神戸市外国語大学 外国語学部 英米学科 卒業。マイクロソフト株式会社名古屋営業所 勤務を経て、P&Gジャパン、ヒルトン東京ベイにて人材育成・組織開発に従事。2005年より現職。2006年にASTDのカンファレンスで人材育成の世界的権威、ボブ・パイク氏のセッションに初参加、大きな衝撃を受ける。トレーナー認定のプロセスを経て、2007年秋、日本人初のトレーナーとして認定される。専門分野は、トレーナー養成、ホスピタリティ、管理職研修、ビジネスコミュニケーションスキル研修など。ホテル業界、製薬会社、電機メーカーなどの業界で、活動中。早稲田大学エクステンションセンター、日経ビジネススクール、日本能率協会にて、講師実績あり。
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