では、この質問をどう言い換えると良いでしょうか。一番お勧めの方法は、実在の第三者の話をしてもらうように問いかける方法です。

 「今までに出会った上司で、良い上司だったと思う人を思い浮かべ、その方のどういう言動が良かったのかを挙げてください」

 「逆に、今までに出会った上司で、良くない上司だったと思う人を思い浮かべ、その方のどういう言動が良くなかったのかを挙げてください」

 このように問いかけることで、自分の話ではなく、第三者の話なので、客観的に話すことができます。また、実在する人の話なので、具体的かつ現実的な内容で話しができます。

 経験上、ここで出てくる回答は、研修内容として用意していることと大きくずれたり、対立するような内容が出てきたりすることはほぼありません。参加者の発言を肯定して受け止めた後、講師が用意している研修内容から補足するという流れになります。そのため、参加者も講師の話の内容を受け入れやすくなります。参加者から意外な内容の発言が多少出てきたとしても、実在する人についての事実ですので、それを否定する必要はなく、「そう感じる人がいる」という事実として受け止めれば良いことになります。

 「上司」というのを例に解説しましたが、販売・営業・接客スキル、チームワーク、リーダーシップ、後輩指導など、「理想の~とは?」「あるべき姿」「やるべきこと」といった研修であれば広く応用可能です。

 別の例で考えてみましょう。この質問はいかがでしょうか。

 「このような場面では、どう対応すべきでしょうか?」

 これも、活発な議論を促す良い質問に聞こえそうですが、先ほどと同じように様々な危険性を含んだ質問です。オープンな質問をやめ、選択肢とその理由を問いかける形に変更してみましょう。

 「このような場面では、以下の3つのうち、どれがベストの対応だと思いますか? また、その理由を挙げてください」

 3つのうちどれがベストか、という点については全員の意見がほぼ一致するような難易度に設定をしておきます。そして、その理由を挙げてもらうことで、話の焦点が定まります。また、講師が用意している「こう対応しましょう!」という研修内容の一部~大半が、参加者の発言となって出てきます。そうすることで、講師からの一方的な押し付けではなく、受け入れやすくなり、納得度も高まることが期待できます。

 もう一つ別の例を見てみましょう。

 「今後、どのような課題に遭遇すると予測されますか? その課題に対してどんな対策が考えられますか?」

 これもオープンクエスチョンが2つ続いているため、話が拡散しすぎたり、ポイントがずれたり、浅くなったりする可能性があります。

 「今後起きそうな課題を7つリストアップしてあります。このなかで、皆さんが最も遭遇しそうで、かつ対策を考えておきたいものを2つ選んでください。選んだ2つについて、考えられる対策を話し合ってください」

 遭遇するであろう課題を最初からリストアップしておくことで、前半部分の話し合いが不要になりますので、時間の短縮ができます。また、よくあるケースに焦点を絞って話すことができます。さらに、グループによって選ぶケースが異なると思われるので、話し合い後の各グループからの発表がより有意義なものになります。

 このように、問いかける質問の質は研修に大きな影響を与えます。特に、オープンすぎる質問をすることで、様々な問題を誘発しているケースをよく目にします。問いかける質問の質を高め、より有意義なディスカッションにし、研修内容に対する受け入れ度合いと、研修後の実践度合いを高める工夫をするヒントになれば幸いです。

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中村 文子、ボブ・パイク 著 / 日本能率協会マネジメントセンター

中村 文子(なかむら・あやこ) ダイナミックヒューマンキャピタル株式会社 代表取締役
中村 文子

 大阪府出身、神戸市外国語大学 外国語学部 英米学科 卒業。マイクロソフト株式会社名古屋営業所 勤務を経て、P&Gジャパン、ヒルトン東京ベイにて人材育成・組織開発に従事。2005年より現職。2006年にASTDのカンファレンスで人材育成の世界的権威、ボブ・パイク氏のセッションに初参加、大きな衝撃を受ける。トレーナー認定のプロセスを経て、2007年秋、日本人初のトレーナーとして認定される。専門分野は、トレーナー養成、ホスピタリティ、管理職研修、ビジネスコミュニケーションスキル研修など。ホテル業界、製薬会社、電機メーカーなどの業界で、活動中。早稲田大学エクステンションセンター、日経ビジネススクール、日本能率協会にて、講師実績あり。
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