中村文子
ダイナミックヒューマンキャピタル代表取締役

 ある新任管理職研修で、講師が参加者にこう問いかけました。

 「あなたが考える、理想の上司とはどんな人ですか?」

 一方的な講義が続くと、参加者の興味を引きつけることが難しかったり、眠そうにしている人が出てきたりするので、なんとか積極的に参画してもらおうと思い、こう問いかけてディスカッションをしてもらおうとしたのです。

 講師の理論を押し付けるのではなく、参加者の意見を引き出す。一見、双方向な研修にするための良いアイデアに見えます。しかし、実はこの問いかけは、様々な課題を引き起こす危険性があります。というのも、この質問は、とてもオープンな質問ですので、参加者は思いのままに答えることになります。その結果、下記のような場面を誘発しやすくなってしまうのです。

●研修として用意している内容と異なる見解が出てきて、
 軌道修正が難しくなる
●参加者の発言内容を否定しなければいけないような発言が出てくる
●参加者の持論が展開され、対応に困る
●参加者同士の考えが合わず、議論が白熱し、雰囲気が悪くなる
●質問がオープンすぎるため、何を答えていいかピンとこない
●教科書的な、表面的な答えしか得られない
●「現実にはそんな理想の上司はいない」という
 あきらめの空気が漂う

 いかがでしょうか。そのような場面を見たことがある、あるいは、経験したことがあるという方も多いのではないでしょうか。そして、このような場面に講師がうまく対応できないと、参加者との信頼関係を構築することが難しくなります。それが後に、「否定的な意見を言う」「斜に構えている」「挑戦的な発言をする」という、いわゆる「対応が難しい参加者」の火種になることも少なくありません。これでは、せっかく参加者の意見を引き出し、双方向な研修にしようと思って問いかけをしたことが、かえってマイナスになってしまいます。とはいえ、一方的に、「上司とはこうあるべき」と講師から押し付けても、参加者の共感を得ることは難しいでしょう。

 では、こちらはいかがでしょうか。

 「あなたがこれまで部下や後輩と接するなかで、上司・先輩としてうまくいったケース、逆にうまくいかずに課題を感じているケースをシェアしてください」

 先ほどの質問よりは現実に即した話になるため、やや良いディスカッションができそうに見えます。ですが、この質問だと「うまくいったケース」では自慢話が始まったり、逆に自慢話に聞こえるから話したくないという人が出てきたりします。「うまくいかなかったケース」については、自らの失敗談を自己開示することに抵抗があって話が広がらなかったり、かなり特殊なケースで話が盛り上がったり、深刻すぎて対応できないケースが出てくる危険性もあります。