松丘啓司
エム・アイ・アソシエイツ(株) 社長

 本連載では、ダイバーシティ&インクルージョンの実現のために、上司のピープルマネジメント力の向上が不可欠であることを述べてきました。また、ピープルマネジメントを行う際には、「一人ひとりの能力発揮を最大化することによって、全体の成果を最大化する」という発想に立ち、「部下の価値観を理解して強みと意欲を引き出す」ことを重視する必要があると述べました。

 ピープルマネジメントには、そのように個人のパフォーマンスを高めるねらいがありますが、同時にチームのパフォーマンスを飛躍的に向上させる効果も期待されます。多様な人材の相乗効果によって企業にイノベーションを起こしていくことも、ピープルマネジメントの大きなねらいなのです。

年次評価を廃止するグローバル企業

 昨今、アメリカのグローバル企業を中心に年次評価を廃止する会社が増えています。早くはアドビシステムズ、メドトロニック、さらにマイクロソフト、ギャップ、最近ではGEやアクセンチュアといった大企業が次々と年次評価の廃止に踏み切っています。その理由は、年次評価には膨大な労力がかかる割に、個人や組織のパフォーマンス向上にあまりつながらないという考察にあります。

 社員を相対的にランクづけするという従来の評価の根底にあるのは、画一的な評価基準です。画一的な基準があるから相対評価が可能になるわけですが、ビジネス自体が大きく変化する中で、画一的な基準では多様な人材を評価できなくなっているという実態があります。その結果、従来の評価制度では評価エラーが多発して、社員の意欲を削ぐばかりではなく、人材の離職を招く大きな要因にもなっていると認識されています。

 また、これらの企業ではチームにおけるコラボレーション(協同作業)が重視されています。多様な人材が積極的に協調し合う組織風土をつくることが、企業の発展にとってきわめて重要と考えられている半面、社員をランクづけする評価は、競争意識を高め、コラボレーションを阻害する弊害になっていると見られています。

 年次評価を廃止した企業では、そのかわりに頻繁な対話が実施されています。そこでは、目標設定とフィードバックが短サイクルで繰り返されます。刻々と変化する状況の中で、上司は適切なチャレンジ機会を提供し、部下は自分が何によって貢献したいかを自発的に考え、互いに話し合いながら上司が部下の成長を支援します。