世界のエリートと呼ばれる人たちが「美意識」を鍛えている。サイエンス(論理・理性等)中心とする現行の経営手法で成長する時代から、今後の経営にはよりアート(直観・感性・美意識等)の視点が必要だという。

 論理的な情報処理スキルが普及することでビジネスの差別化が困難になり、先の読めない複雑化した世界ではこの合理的な意思決定は「他の人と同じ正解を出す」ことになる。それは必然的に「差別化の消失」につながる。そして、世界中の市場が個人の承認欲求や自己実現を形にすべく「自己実現消費」に向かっている。問われるのは、どこかに属していたいという欲求から、自分らしい生き方をしたい「自己実現」を刺激するような感性と美意識だ。

 また、これらの変化を受け、ビジネスの世界は以前にもまして“論理だけでは到底判断できない”場面が増えている。これらの変化は我々が皆肌で感じるものである。

 本書は、ここから「美意識の必要性」について筆者自身のコンサルタントとしての経験と豊富な引用によって紹介している。

 本書で気になった文の一つに、“これからのビジネスパーソンにとって「美意識」は非常に重要なコンピテンシーとなる”がある。ならば我々人事、人材育成担当者としては、この「美意識」をどう定義し、どう磨き、どう成果に結びつけるかが課題になってくる。

 本書ではこの美意識を鍛える方法の一つとしてアート作品に触れ「見て、感じて、言葉にする」訓練が紹介されている。本質を見つめ、自分の感情や感性をぶつけ、言葉で表現する訓練は、アート作品だけでなくても有用な方法であるような気がした。

 「自分のモノサシをもって美意識を鍛えなさい」。事業会社に勤めていた頃、人事業務全般を担当していた子会社の社長から私に贈られた言葉である。言葉をもらったのは30歳代前半、自分自身のサイエンス面の不足を日々感じ、そこを埋めることに必死になりながらも論理だけでは説明のつかない事案に直面し、手足を必要以上にバタつかせていたのを見抜かれていたのだろう。

 本書を読み進め、先見性のある貴重な言葉を贈ってくれた方の顔を思い出せば、結局のところ「美意識」とは個人の“主観的なモノサシ”なのだと気づく。会社や組織を主語にせず、あくまで「私は~」を主語とした際に何に価値を置き、どう表現するか、これが問われていることを本書は示唆している。何もエリートに限らず、「美しい」と自ら感じられる経験を意識して増やすことが、自らの「美意識」を鍛える一つになるのではないだろうか。

 今後の仕事や生き方に「美意識」という視点を取り入れたい方に、手に取ってほしい一冊である。

参考書籍

『武器になる哲学 人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50』
山口 周 著 / KADOKAWA /1,728円(税込) / 368ページ

池照 佳代(いけてる・かよ) 株式会社アイズプラス 代表取締役
池照 佳代

 約14年間、マスターフーズリミテッド、フォードジャパン、アディダスジャパン、ファイザー、ほかにて一貫して人事を担当後、2006年法政大学経営大学院修了と同時にアイズプラスを設立。人材・組織開発コンサルタントとして、主に企業向けに採用から教育、評価などの人事制度設計支援・コンサルティング、タレントマネジメントやダイバーシティ、女性活躍推進施策の企画・提供、エグゼクティブコーチング、EQ(感情知性)開発支援を提供している。このほか、NPO法人キーパーソン21(キャリア教育の全国普及) 理事、NPO法人IC(インディペンデントコントラクター)協会 理事として活動し、キャリア、働き方、起業についての支援や講演活動に従事。CDA(キャリアデベロプメントアドバイザー)、EQGA公認トレーナー。SEI EQアセッサー(国際認定資格)。The Bob Pike Groupプロフェッショナルトレーナー。
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