池照 佳代
アイズプラス 代表取締役

新・所得倍増論
新・所得倍増論
デービッド・アトキンソン 著 / 東洋経済新報社 / 1,620円(税込) / 305ページ

 「はじめに」の最初の一文から少しドキッとした、“日本は先進国でもっとも生産性が低く、もっとも貧困率が高い”。「生産性を上げよう」、「貧困率に対応しよう」という話はメディアでもよく見聞きして課題があることは理解しているが、この最初の一文のように「もっとも」と順位を明らかにされたことはあまりなかった気がする。

 筆者はイギリス人、元ゴールドマン・サックス金融調査室長。裏千家茶名「宗真」をもち、現在は日本の国宝・重要文化財の補修を手掛ける小西美術工藝社で代表を務める人物である。これまでにも日本の強みと弱みを客観的な視点から分析し、未来に向けた提言をまとめた書籍をいくつか出している。今回の書籍でテーマに挙がっているのは、生産性、GDP、そして女性の活躍などで、それぞれのテーマに客観的なデータと、アナリストとしての視点から日本の潜在能力の発揮を信じた提言がある。愛情いっぱいの厳しい提言は、清々しい気持ちさえするものである。人口が確実に減少する現実がある今、従来の成功体験だけに頼らず、会社という軸にとどまらず社会として何を感じ取っていくべきかを考えるきっかけになる一冊である。

 “apple to apple” この本を読んで思い出したフレーズである。米国企業に勤めていた際、「よくある話」や「一部の社員の話」につい反応してデータ比較をしてしまっていた私に、イギリス人の上司からかけられた言葉である。リンゴとリンゴの比較をすること、同一条件や同じ性質でないものとの比較でなく、同一条件のもとで比較をしてから判断し戦略につなげるということである。よくある話に引っ張られていた私は、いわばリンゴとオレンジを並べて比較していたのであった。

 人事や人材育成担当者においては、ややもするとメディアやトップマネジメントからの危機感を受けて、近視眼的な視点の対応策に興じてしまうことも多いのではないだろうか。反省を込めて言えば、若い頃の私にはまだまだこんな対応があり、周囲の経験者からの示唆で乗り越えてきた経験がある。この書籍は、これまでの前提や常識とされていたことがらが変化した際の分析の見方や戦略の立て方についての示唆が多くあり、読んでいてハッとさせられることが多い。働き方改革を進めるうえでの生産性の測り方や女性の労働力強化も含め、これからの人事的戦略を見直すうえで本当に“apple to apple”な指標で捉えているかなど、今一度考えるためにもお勧めする一冊である。

参考書籍

『新・観光立国論』
デービッド・アトキンソン 著 / 東洋経済新報社 / 1,620円(税込) / 280ページ

池照 佳代(いけてる・かよ) 有限会社アイズプラス 代表取締役
池照 佳代

 約14年間、マスターフーズリミテッド、フォードジャパン、アディダスジャパン、ファイザー、他にて一貫して人事を担当のちアイズプラスを設立。人材・組織開発コンサルタントとして、主に企業向けに採用から教育、評価などの人事制度設計支援・コンサルティング、タレントマネジメントやダイバーシティ、女性活躍推進施策の企画・提供、エグゼクティブコーチング、EQ(感情知性)開発支援を提供している。このほか、NPO法人キーパーソン21の理事を務め、全国の学校現場に児童、社会人(企業)、学校、地域の協働プロジェクトとしてキャリア教育プログラム提供の支援を行うなど、社会貢献活動を続ける。CDA(キャリアデベロプメントアドバイザー)、EQGA公認トレーナー/プロファイラー。
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