本書を読んで私自身が理解した「越境的学習」とは、自分自身が感じている「ホーム」である所属組織と「アウェイ」な場所や組織を行ったり来たりすることで知的な学びを得るプロセスのことである。

 ではそれはいったい何か。例えば会社員が会社外の様々な立場の人たちと相互に交流や活動をするボランティア活動、地域の町内会やPTA活動などで役割をもって活躍するコミュニティ活動、そして外部の勉強会や社会人大学(院)に通うなどする学習活動などが代表的なものである。これによって得られる成果は多岐にわたる。

 本書は、この「越境的学習」について、法政大学大学院政策創造研究科教授でもある著者が事例研究をもとに個人と組織にもたらす効果を検証しまとめた一冊である。経営分野の学術書にあたるが、研究者だけでなく人事・人材育成担当者を中心に人材育成やキャリアに関わるビジネスパーソンにおすすめしたい一冊である。

 事業会社で採用を担当していた頃、同じポジションに対し欧米出身の候補者と日本人の候補者、両方の複数人を面談する機会が多かった。一通りの面談をした後に必ず私が聞いていた質問の一つに「社外の活動で何か学びを得ているものはありますか?」であった。

 あくまで傾向だが、欧米の候補者の多くは「子供のサッカーチームのコーチ」や「コミュニティ内でのボランティア活動」などを挙げ、それらが自分自身の仕事や人間的成長に大きく貢献している体験談を披露してくれた。一方、日本人の候補者の多くは「子供の学校のPTAやコミュニティ活動などは家人に任せています。私は仕事に専念できます」と自分の仕事だけに専念できる環境を作っていることを宣言していた。一方は自分の世界(ホーム)から出ての活動(アウェイ)で学ぶことをポジティブに捉え、他方はホームの役割に専念することを美徳にしているように見えた。

 採用担当者というよりも一人の人間として、社外での活動を自分自身、そして自分の仕事にプラスに働かせる候補者の話は大変刺激的であった。この経験は、その後私自身が、ホームと思える場所以外に、アウェイという違和感のある場所の中で役割を持つきっかけになる。

 現在、私自身は本業のほかに2つのNPO団体の理事を勤め、また社会人になってから大学院に通う機会を得た。

 これらのアウェイな場所での活動や学びでは、普段使用する言語が通じない、思ったスピード感で仕事や学習が進まない、思ってもみない価値観に遭遇してプロジェクトが進まない……など苦労が多いのも確かである。だが、これを上回る成果がある。私自身が感じる成果は、共通言語が通じない場所で意思を疎通させるためのコミュニケーション力の向上、新たなチームでの信頼関係の構築力、そして多様な人材や組織文化と触れ合うことでの柔軟性の強化とプロジェクトの遂行力などである。

 このどれもが、私にとって大きな意味をもっており、今では自分自身を形成する欠かせない学習機会であり経験となっている。

 学術書となる本書は、読み始めから少々難しさを感じるかもしれない。それこそアウェイに入ったような違和感を持つかもしれない。もしその違和感を持つのであれば、これこそが越境的学習機会にあたるのではないだろうか。私自身、少々の違和感を持ちながら“あと1ページ”と読み進め、結局最後まで読み切ってしまった。そして、読了の際には新たな越境的学習の門を開きたくなる一冊である。

参考書籍

『組織内専門人材のキャリアと学習: 組織を越境する新しい人材像』
石山 恒貴 著 / 日本生産性本部生産性労働情報センター /1,620円(税込) / 172ページ

池照 佳代(いけてる・かよ) 株式会社アイズプラス 代表取締役
池照 佳代

 約14年間、マスターフーズリミテッド、フォードジャパン、アディダスジャパン、ファイザー、ほかにて一貫して人事を担当後、2006年法政大学経営大学院修了と同時にアイズプラスを設立。人材・組織開発コンサルタントとして、主に企業向けに採用から教育、評価などの人事制度設計支援・コンサルティング、タレントマネジメントやダイバーシティ、女性活躍推進施策の企画・提供、エグゼクティブコーチング、EQ(感情知性)開発支援を提供している。このほか、NPO法人キーパーソン21(キャリア教育の全国普及) 理事、NPO法人IC(インディペンデントコントラクター)協会 理事として活動し、キャリア、働き方、起業についての支援や講演活動に従事。CDA(キャリアデベロプメントアドバイザー)、EQGA公認トレーナー。SEI EQアセッサー(国際認定資格)。The Bob Pike Groupプロフェッショナルトレーナー。
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