経営力を鍛える人事のデータ分析30
経営力を鍛える 人事のデータ分析30
林 明文・古川 拓馬・佐藤 文 著 / 中央経済社 / 2,376円(税込) / 232ページ

 平均年齢、平均勤続年数、男女比率、管理職比率、給与レンジ、評価データなど、私が人事制度改革や風土改革で企業クライアントにうかがう際に収集する情報の一部である。

 データがすぐに出てくることはまれで、これらのデータを取っていないことから素データを集めて一緒に構築する、または、それぞれ担当者がばらばらで社内を駆け回って収集する作業が必要になるところが多い。つまり、このような人事データは多くの企業で存在はあっても活用には至っていないことがほとんどだ。

 モノやカネと異なり、確かにヒトのデータは扱いにくく見えにくい。その時の風土や文化、経済状況やはたまたモチベーションなど、およそ数字にしにくい部分があるのも確かである。だが、本書が提唱しているように自社の実態を正しく把握し、重要な経営資源に値する人材を成長のエンジンにするには、人事データを経営指標のなかで共通言語化し活用していくことがより必要とされる。

 本書はこの目的において、経営指標の一つとなる人事データにおいて、基本的な経営管理のベース知識と生かすスキルの習得を目的としている。紹介されている一つひとつのデータは難解なものはなく、人事分野の基本的かつ重要なテーマで分析に用いることができるものばかりである。

 欧米資本の事業会社で人事を担当していた時代、いつも昼間のオフィスしか訪ねてこない欧米本社から出向してきた役員から「日本のオフィスは女性ばかりなの?」と聞かれたことがあった。

 事業再編に向けて人員構成の把握が必要だが、昼間オフィスにいるのは事務職の派遣スタッフばかりだったからだ。彼にはその女性たちが自社の社員か、派遣スタッフかも分からない。その後、それまでデータ化していなかった人員構成をデータ化し、また協力会社も含めて人的リソースを数値化することで日本での“ヒト”に関する経営指標に理解が進んだことをよく覚えている。ただし、その際には、“定量”だけでなく“定性”データも丁寧に付け加えたことも理解が進む要因だったと記憶している。

 私自身は、データは“定性”という現場の声と、それを数値で分かりやすくする意味での“定量”の両方が、特に人事分野では重要と感じている。そして、データ収集のためのデータ取りになってはいけないことも、人事分野では必要な視点であろう。本書のタイトルにもあるように、経営という目的を持つからこそ、数字やデータが生きてくると強く感じている。

 “人事”を経営の重要なエンジンにするには、経営に関わる人がスピード感を持って腹をくくって決断し、周囲の納得を得てアクションを起こすことがますます必要となる。この心を決める決断と周囲の納得を得るためのベースとなるのが、本書で示すような数字で把握できる共通言語となる人事データである。

 目的達成のために新たに人事データに目を向けたい、または既存の人事データの切り口を見直したい人事・人材育成担当者に、お薦めする一冊である。

参考書籍

日本の人事を科学する 因果推論に基づくデータ活用
大湾 秀雄 著 / 日本経済新聞出版社 / 2,484円(税込) / 256ページ

池照 佳代(いけてる・かよ) 有限会社アイズプラス 代表取締役
池照 佳代

 約14年間、マスターフーズリミテッド、フォードジャパン、アディダスジャパン、ファイザー、他にて一貫して人事を担当のちアイズプラスを設立。人材・組織開発コンサルタントとして、主に企業向けに採用から教育、評価などの人事制度設計支援・コンサルティング、タレントマネジメントやダイバーシティ、女性活躍推進施策の企画・提供、エグゼクティブコーチング、EQ(感情知性)開発支援を提供している。このほか、NPO法人キーパーソン21の理事を務め、全国の学校現場に児童、社会人(企業)、学校、地域の協働プロジェクトとしてキャリア教育プログラム提供の支援を行うなど、社会貢献活動を続ける。CDA(キャリアデベロプメントアドバイザー)、EQGA公認トレーナー/プロファイラー。
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