監修:石井 りな
フェミナス産業医・労働衛生コンサルタント事務所、(株)プロヘルス代表

 「キツい上司がいて参ってるんです……」 産業医としても、臨床医としてもよく受けるご相談です。『キツい』がパワハラであるかどうかは別の機会に譲って、今回は、この『キツい』という上司の対応をどのように自分が受け止めるのか? 実際のケースを元にした事例から、自分自身の「認知」について考えてみましょう。

 「先月担当していたプロジェクトの中で、一つ大きなミスをしてしまって、それ以来、上司と折り合いが悪くなってしまいました」と話すAさん。

 大切なプロジェクトの中でミスをしてしまったAさんは、上司Cさんの叱責を受けました。初めは「僕は、何というミスをしてしまったんだろう。あれだけ、ミスがないように確認したのに……。自分には能力がないんじゃないだろうか」とショックを受け、自分を責めるように思っていたAさん。

 しかし、Cさんに厳しく指摘を受けると、「それにしても、部長は怖かったなぁ、あそこまで言わなくてもいいのに。言い方がキツすぎるよなぁ。おかげで自信なくしちゃったよ」。「部下の気持ちを考えないで、怒りをぶつけてくるなんて、なんて上司だろう。そういえば、いつも無理難題を押しつけられている気がする」と、叱責を理不尽なものと捉え、上司への嫌悪感を感じるようになりました。

 「あー、明日から顔を会わせるの、嫌だな」と、上司に対する態度もどことなくギクシャクしはじめます。人事からの報告では、上司のCさんからは、反省の色を見せるのかと思いきや、ミスの後、ぶっきらぼうでふさぎがちに会話するようになったAさんの態度は不誠実で、逆にふてくされているようにも見えたそうです。

 コミュニケーションをわざと避けるAさんは、コミュニケーション不足からその後も細かなミスを連発。改善の努力をしているようには見えず、人事評価を減点するに十分でした。「やはり、上司は僕のことを評価してくれませんでした。どうせ僕は何をやってもうまくいかないんです」と八方ふさがりになって相談に来たのです。チームに居場所がなくなり、退職も考えているということです。

 では、同じようにプロジェクトの中で大きなミスをしてしまったBさんの対応と比較してみましょう。

 「大切なプロジェクトの中で大きなミスをしてしまったことに責任を感じました。同時に二度と同じミスは繰り返さないと心に決めました」と話すBさん。

 当然、Bさんも上司のCさんから叱責を受けました。しかし、「自分なりにできるだけ客観的にミスの原因をふり返ってみたんです。大切なプロジェクトですから、部長が怒るのも当然です。Cさんも私に期待してくれていたからこそ、このプロジェクトを任せてくれたわけで、がっかりさせてしまったと思います。ミスを見直した結果、業務フロー上で可能な対策を3つ同定することができました。構造上、再度生じ得るミスであることも分かったので、今回はこの程度のミスで済んでかえって良かったのかもしれません」と話すBさんは、今回の学びを生かすため、冷静な反省の後、気後れしすぎずに上司のCさんと積極的なコミュニケーションを心がけ、建設的な相談を行うことでさらなるミスを未然に防ぎ、仕事の質を上げていきました。

 「チームに迷惑をかけてしまったので、確かにつらく申し訳ない気持ちはありましたが、むしろ精神力を鍛えられたと思います」と話すBさんは、その後も良好な人間関係の中で経験値を積み上げ、一気にプロジェクトリーダーへと抜てきされていきました。

 この事例を見比べれば、どちらがチームや上司から評価されたかはいうまでもありません。では、AさんとBさんの違いはなんでしょうか?