石井 りな
フェミナス産業医・労働衛生コンサルタント事務所、(株)プロヘルス代表

 先日の「ブラック産業医」に関する記事が産業医の間でも話題になりました。ブラック産業医とは、企業と組んで、不当な解雇に手を貸す産業医のことのようです。「退職に追い込む」「クビ切りビジネス」といった偏った表現が散見され、心を痛めました。

 「ブラック産業医」がいるとすれば産業医として悲しいことですが、一方で、人事担当者のなかには、そもそも産業医と主治医の違いを分かっていない方もおり、そこから大きな誤解を生じる場合があります。職場の健康管理を行うためには産業医と担当者が相互理解と連携をして、従業員の誤解を生まない環境を作っていかなければなりません。 そこで今回は、「ブラック産業医」の話題について私が疑問に感じたことを起点にお話しし、産業医の業務について理解を深めていただきたいと思います。

 私がどうしても疑問を払拭できない点が次の2つです。
①産業医が面接で診断する?
②メンタルが原因による休職の場合、精神科専門医でない産業医が復職の可否を判断できないようにする?

産業医は診断しない

 そもそも産業医は、企業内診療所でもない限り、産業医活動の中で病名や障害の診断はしません。精神科においては、医療機関で検査などを行わず、問診など面接形式のみの診察で診断することもあり、「産業医としての面接」と「臨床医としての診察」を混同している方がいます。しかし、産業医が行うのは、診断をする「診察」ではなく、健康状態や業務への適性を評価する「面接」です。なんだか言葉遊びのようですが、両者は似て非なる行為なのです。

 産業医の立場で評価できるのは、「◯◯病の疑いで病院受診が必要」といった医療の要否や、就労可否、就労制限・配慮の内容および必要性などです。もしも記事の通り、産業医活動の中で、診断を下していたとしたら、役割を逸脱した行為と捉えられても仕方がないかもしれません。

メンタル疾患だけ特別扱い?
それとも各科の専門医を産業医として配置しなければならないのか?

 私自身は精神科専門医なので、精神科の臨床経験や知識が産業医活動に役立つことを否定しません。しかし、メンタル疾患について、精神科専門医資格を有する産業医しか復職判定をできないとするなら、他の科の疾患はどうするのでしょう? メンタル疾患だけを特別扱いするのでしょうか?

 それはおかしな話だと思います。他の疾患の場合にも就労判断が難しいケースがあり、身体疾患なのかメンタル疾患なのかの線引きが難しい病態も多くあります。それでは、各科の専門医を産業医として配置しなければならないのか? 心臓疾患からの復帰は循環器専門医の産業医、骨折からの復帰は整形外科専門医の産業医……。「会社は、各分野の産業医をその都度用意するのか!?」とツッコミを入れたくなってしまいます。

 各疾患について専門的な立場から判断するのは、そもそも主治医の役割であるはず。主治医(専門家)の意見を踏まえ、あらためて職場の環境や業務内容と照らし合わせた就労判定を行うのが産業医です。産業医としての役割を理解し、職場の状況を理解しているならば、メンタル疾患の復職判定を行う産業医が「精神科医」である必要はないと考えます(メンタル疾患に対する関心や理解は必須です)。