働き方改革の一環として「多様で柔軟な働き方の実現」について、フレックスタイム制、裁量労働制、成果型労働制の見直し・創設がうたわれて、取り組みを始める企業が増えてきました。うまく活用される一方で、柔軟な働き方の導入が、逆に健康障害を引きおこす契機になったケースを最近いくつか経験しましたので、ご紹介したいと思います。

 以前のコラム「『働き方改革』で強く求められる自己管理」でも、働き方の形が変わっていくなかで、自己管理が強く求められると述べましたが、ケースを通じて、柔軟な働き方を推進していくうえでの注意点に触れていきます。

① 不規則な労働時間で体調を崩したケース

 28歳女性のAさんは、真面目な仕事ぶりで部署内でも信頼されていました。働き方改革に向けて、所属部署で試行される時差通勤制度のモニターに選ばれ、上司から10時業務開始を指示されました。それまでは、定時より早く、8時には出勤し、繁忙期には21時頃まで残業することも珍しくはありませんでしたが、運悪く、時差出勤を開始したのがちょうど繁忙期に重なってしまいました。

 これまでであれば、終業後に自分の時間が取れていたのですが、繁忙期ということで、時差出勤しても業務量が減ることはなく、10時に出勤し、終電で帰宅する生活が続きました。前日の疲れで、朝の時間はそれほど有効活用できず、友達とも時間が合わせにくくなったため、リフレッシュする時間も取れなくなりました。3カ月を経過した頃から体調に異変を感じ心療内科を受診、結果的に3カ月間の休職となりました。

 この例にあるように、フレックスタイム制や時差通勤は、必ずしも全ての社員に適合するものではありません。導入時期(ex.繁忙期を避ける)、業務内容や量、特性(早い出社で生産性を上げるタイプと、遅い出社で生産性を上げるタイプといる)をよく踏まえて導入しないと、よかれと思った取り組みが裏目に出てしまいやすいです。

② 不調の発見が遅れたケース

 Bさんは、コンサルティング会社勤務の42歳男性です。業務の特性上、クライアント先での仕事が多く、裁量労働制を導入していたので、会社側も業務時間に関してそれほど厳しい管理を行っていませんでした。

 ある日、体調不良を訴えたため、産業医面談が実施されました。最近2カ月ほど、業務開始が午前中のコアタイムから遅れることが多く、午前の業務はほとんどできていないことが分かりました。一方で、テレワークできるよう、ノートPC、携帯、モバイルルーター等が会社から貸与されていたため、深夜過ぎまで自宅で業務を行うことも増えていました。午前の業務ができなくなってきた頃から、集中力が低下し、業務効率も落ち、上司にミスを指摘されることが増加。疲労感が強く体調が優れない日が続いていました。

 産業医は心療内科・精神科の受診を指示すると供に、上司・人事と3者面談を行い、深夜業務の制限など、一定の就業措置が取られました。しかし、Bさんの体調はあまり回復せず、いったん休職し、最終的には退職に至ってしまいました。上司は、それとなく状況を把握していましたが、もともと個人の裁量が大きい社風なため、異常(事例性&疾病性)として捉えたのは休職になるほどに本格的に支障が出てからでした。

 裁量労働制には長所も多くありますが、より高い自己管理能力が求められます。この例のように裁量労働の陰に隠れて、不調の発見が遅れ、重症化してしまうケースを散見します。周囲が異変に気づいたら早めの声かけを行うだけでなく、本人自身も仕事と健康の自己管理に十分な注意を払う必要があります。電話会議などで深夜業務が生じやすい外資系企業では、22時以降に自宅から電話会議に参加する場合は必ず上司承認を得てから行うようルールを作った企業もありました。