石井 りな
精神科専門医、産業医/フェミナス産業医・労働衛生コンサルタント事務所、(株)プロヘルス代表

 「会社の責任をきちんと果たしながら対応したいが、従業員対応に困っている」「労使でもめずに、互いに納得しながら進めたいが、何からしていいかわからない」など、フェミナス産業医事務所へ寄せられる対応困難ケースが増えています。それらの多くに共通することは、「体調不良を理由にした勤怠の乱れ」と「擁護的な主治医診断書」です。

 まず「勤怠の乱れ」とは、時々遅刻する、時々休むというレベルではなく、「週2〜3日は休んでしまう」「午後からしか勤務できない」「週3日勤務から増やせない」「毎年冬は半分以上休みがち」……。出勤率が60%程度、中には50%に満たない例も見られます。このくらいの出勤率で、なぜ常勤社員としての雇用契約が継続されるのか不思議に思う方もいるのではないでしょうか? しかし、実際はこのようなケースが職場で多発し、人事担当者も頭を抱えています。

復職自体が目的ではない

 一方「擁護的な主治医診断書」とは「短縮勤務なら可能」「午後からなら可能」「週3日勤務なら可能」といった、ご本人は常勤社員として雇用されているにもかかわらず、定時勤務よりも制限した勤務内容が記載されている診断書です。主治医は治療者ですから患者さんに擁護的であって当然ですし、診断書にはご本人の意向が反映されることがしばしばです。私自身も、精神科主治医の立場では、擁護的な診断書を作成したこともあります。

 ただし、企業を悩ませている「対応困難ケース」にはこういった「擁護的な診断書」が影響している例が少なくないことも事実です。例えば、上司は良かれと思い、主治医の意見通り軽減勤務(時短勤務)からの復職を許容したものの、一向に時短勤務から増やせず、ずるずると1年以上が経過。周囲はいつになったら一人前に仕事を任せられるのかと不満や疲弊が募ってきている。自社の産業医と面談を実施しても「主治医が軽減勤務と言うなら、無理をさせないように続けてください」と言われるだけで、制限が緩和できない……。

 「復職」とは「特別な業務制限や体調への配慮がなくても、症状の再燃なく(病気の再発なく)、職場で期待されている業務を継続できるようになる」ことであり、復職すること自体が目標ではありません。常勤社員として採用されているのであれば、やはり最低限「定時勤務(時間外労働は禁止)」はできるようになってほしいものです。

 職場でのメンタルヘルス対策や職場環境の改善が求められている昨今ですが、職場はリハビリの場ではなく労務を提供していく場ですから、継続可能な配慮にも限界があります。なにより、擁護的な配慮や環境が長引くことは、ご本人が自ら回復しようとする過程を妨げてしまいます。自身でも気づかない中で「疾病利得」が成立し、自ら目標をもって改善を試みる機会や、厳しい環境に一歩踏み出そうとする機会を逸してしまうのです。