井上 俊明
日経BPビジョナリー経営研究所主任研究員、日経トップリーダー編集委員

 11月23日に東京都内で開催された、「がん医療と職場の架け橋大賞」の最終審査会の外部審査委員を務めた。この催しは、順天堂大学の乳腺・内分泌外科と衛生学の両講座が、厚生労働省の事業を受託して主催するもの。がん治療と就労の両立支援のよい活動をしている企業や医療機関などを表彰しようというものだ。

 医療機関と企業、企業内、医療機関内の3部門で募集が行われた結果、各部門3施設ずつ、合計9施設が最終審査会に進んだ。東京医科歯科大学付属病院、日本航空、富士通といった大組織から中堅企業、NPO法人まで多彩な顔ぶれの中から、中外製薬が大賞に選ばれた。

地道に取り組む中堅企業も

 審査に参加して感じたことは、何よりも就労支援の広がりだ。医療機関と企業の部門の3施設は、いずれも社会保険労務士が関わって就労支援を行っていた。3施設とも都内の大病院だが、国の後押しもあり、がん診療の中核となる各地のがん診療連携拠点病院にも、社会保険労務士を活用する動きがあるという。

 また、健康関連のビジネスを手がけている会社や健康経営“業界”の著名企業ばかりでなく、従業員1000人規模のメーカーが最終審査に残った点も注目される。大企業ほどの派手さはないものの、予算と人員の許す範囲でがんを患った社員の就労継続に努力している姿勢は十分にうかがえた。

 がん患者の増加と治療法の進歩で、がんを抱えながら働く社員はもはや珍しくなくなってきた。特に発症年齢が若く、患者数が多く、治ゆ率も高い乳がんの体験者はたくさんいる。今、乳がん治療は10年がかりであり、がんを抱えながら働く期間は長期間に及ぶ。その間、企業側は様々な支援が求められることになる。

 これまでに取材したがん患者の就労支援に熱心な経営者や実務担当者の中には、やはり女性のがん体験者が目立った。その多くは乳がんにり患した人だとみられる。自らの闘病体験は、がんの種類は違うといえどもその就労を支援するうえで参考になることはいうまでもない。

 男性でも、胃がんや大腸がんの体験者は確実に増えてきているはずだ。こうした人たちもそれぞれの立場でがん患者の就労支援に携われば、その裾野はいっそう広がることが期待できよう。

 病気を抱えながら働く人を支援することが、生産性の向上を目的とする健康経営の一環かどうか見方は分かれるかもしれない。しかし、今や「2人に1人ががんになる」といわれる時代だ。労働力確保のうえからも、がん患者の就労支援が、企業にとって避けて通れない取り組みになってきているのは間違いない。

井上 俊明(いのうえ・としあき) 日経トップリーダー編集委員、健康経営フォーラム
井上 俊明

 日経BP入社後25年近くにわたり、医療・介護分野を取材。1998年から5年間日経ビジネス編集部に所属し、税金、健康保険、年金などを受け持つ。2007年社会保険労務士登録。現在、中小企業や女性向けの媒体に労働関係のコンテンツも提供している。

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。