井上 俊明
日経BPビジョナリー経営研究所主任研究員、日経トップリーダー編集委員

 政府はこのほど、一昨年施行された「過労死等防止対策推進法」に基づき、年1回、国会に提出が義務づけられている報告書をまとめた。電通社員の過労自殺問題が世間を騒がせている中での、最初の国会報告となる。その中に盛り込まれた、直近のデータと調査結果を紹介しよう。

 報告書はまず、労働者1人当たりの年間総労働時間や、1週間の労働時間が60時間以上の雇用者の割合は、近年緩やかに減少していると指摘した。例えば、2015年に週60時間以上働いた人は8.2%、10年前より3.5ポイント少ない。しかし、パートタイマーを除く労働者の年間総労働時間は2000時間前後で、30歳代・40歳代の男性では週60時間以上働いている人がいずれも15%を超えている(2015年)。このことから、いずれも高止まりだとしている。

情報通信などで月80時間超の残業

 メンタルヘルスケアに取り組んでいる事業所の割合は大幅に増えた。2013年は60.7%と2012年より13.5ポイントの増加。ただし、それでも仕事や職業生活に関する強い不安・悩み・ストレスを感じる労働者は過半数に達している。

 また2015年度の脳・心臓疾患に関わる労災の支給決定件数、同精神障害の支給決定件数はそれぞれ251件と472件。いずれも2014年より減少し、脳・心臓疾患では2001年度以来の少ない数字となった。これに対し精神障害の方は、4年続けて400件超の高水準で推移している。

 また、同白書は2015年12月から翌年1月にかけて、企業約1万社、労働者約2万人を対象に実施したアンケート調査の結果も掲載している(それぞれ1743社、1万9583人が回答)。それによると、1カ月の時間外労働が45時間超の企業の割合は、①運輸業、郵便業、②宿泊業、飲食サービス業、③卸売業、小売業の順に多い。さらに、時間外労働が最も多い月で80時間超に達した企業の割合は、①情報通信業、②学術研究、専門技術サービス業、③運輸業、郵便業の順。

 一方、労働者対象の調査からは残業時間が長いほど「疲労の蓄積度」「ストレス」が高い人の割合が高く、週20時間以上の場合で43.9%(「高い」「非常に高い」の合計)に達した。また睡眠時間の不足を訴える人のうち、「残業時間が長いため」を理由に挙げる人は36.1%で最も多かった。さらに8.6%が、「帰宅後も仕事のメール・電話応対等で拘束されるため」を挙げていた。

 この11月は「過労死防止月間」。厚生労働省を中心に様々な行事が予定されている。過労死などの防止対策として、国民に向けた周知・啓発は、相談態勢の整備と並んで重要な柱。今回の白書も活用しながら、国や民間団体には真剣に取り組んでほしいところだ。

井上 俊明(いのうえ・としあき) 日経トップリーダー編集委員、健康経営フォーラム
井上 俊明

 日経BP入社後25年近くにわたり、医療・介護分野を取材。1998年から5年間日経ビジネス編集部に所属し、税金、健康保険、年金などを受け持つ。2007年社会保険労務士登録。現在、中小企業や女性向けの媒体に労働関係のコンテンツも提供している。

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。