インテリア雑貨を販売している企業が、郊外に新しい店舗を開設するにあたり、従業員を募集しました。しかし、昨今の人材難でなかなか思うように集まらず、教育も行き届かないまま、ギリギリの日程での見切り発車となりました。

 そのため、初日からトラブル続きで、夕方には若い従業員の接客態度についてお客さんから強いクレームが上がりました。プレゼント用に買ったガラス製品の梱包があまりにも雑だというものでした。

 呼ばれた店長が確認すると、たしかにお客さんの指摘通りでした。その企業は、各店舗にマニュアルで細かい指示を出しており、梱包についても書かれていました。しかし、全くそれが守られていなかったのです。

 閉店後、店長はその従業員を呼んで聞きました。

 「ガラス製品だと分かっていたはずでしょ? どうして、ちゃんと包まなかったの?」

 「マニュアルに書いてあるじゃないか。どうして、その通りにしないの?」

 従業員は、これまでガラス製品など梱包した経験はないし、マニュアルを見ている時間もなかったのですが、なんと答えていいか分かりませんでした。

 すると、店長が重ねて問いました。

 「さっきから、なんで、黙っているの?」

 ここでようやく従業員が「すみませんでした」と頭を下げると、店長は「今後気をつけろよな」と言い捨て、不機嫌な様子で売り場の片づけに戻っていったそうです。

 このエピソードを聞いて、私はその従業員が辞めはしないかと心配になりました。

 「どうして?」「なんで?」と尋ねていたはずなのに、従業員が謝罪したことで済ませている店長は、最初から原因を探るつもりなどなく、叱責言葉として「どうして?」「なんで?」を使っている訳です。

 同じような光景はどんな職場にも見受けられますが、このやり方は、従業員をひどくくじけさせます。

 「どうして、こんなことができないの?」

 「なんで、何度も間違えるの?」

 「どうして、そうなる訳?」

 「なんで、間に合わなかったの?」

 この「どうして?」「なんで?」を口にしている上司は、あたかも部下に弁明のチャンスを与えているようですが、そうではありません。

 もし部下が「それは、急な仕事が入ったからです」などと答えたら、「なんで、そっちを優先したの?」とさらに問い詰めるか、「言い訳するな!」と逆ギレするのがオチでしょう。