私がかつて、アメリカで行動科学マネジメント理論の基礎を学んでいた時、強く印象に残ったのが「重要なのは現場の人間の行動だ」という指摘でした。

 会社に直接の利益をもたらしてくれるのは、社長が打ち立てた目標でも、部長が掛ける号令でもなく、現場の人たちの行動です。だから、上の人間が第一に考えるべきは、現場の人たちの「やる気」を喚起することではなく、彼らが利益につながる行動をとってくれるような仕組みを作ることだと言われたのです。

 これは、私にとって「目からうろこ」でした。当時は私自身、経営している会社のマネジメントがうまくいかずにもんもんとしていたのですが、スカッと空が晴れていくような思いでした。

 私がすべきことは、従業員に「結果が出る行動」がとりやすい環境を用意することであり、必要以上に従業員の内面に踏み込むことではなかったのです。

 今でも多くの企業が、現場の従業員に対する「愛情のかけ方」を間違えています。

 上司は部下に対して、「ここを乗り越えることが成長につながる」「自分で考える力をつけなくちゃダメだ」「相手の立場になって判断することが重要だ」などという曖昧なスローガン言葉を、「君のためを思って言っているんだ」というセリフと共に使っています。

 確かに、その上司は「部下のため」を思っているのかもしれません。しかし、実際にはそうなっていないケースがほとんどです。

 本当に部下のためを思うなら、部下が望む形でアドバイスを与えるべきでしょう。それはすなわち、「どうしたら結果が出せるか」を具体的に教えてあげることであり、スローガンでげきを飛ばすことではありません。

 「主体的にやれ」

 「真剣に取り組め」

 「アンテナを高く持て」

 「レベルに応じてやってみろ」

 「本質を見極めろ」

 「気持ちを込めよう」

 「目線をそろえることが必要だ」

 こうしたスローガン言葉がマズいのは、それを口にした段階で上司は「いいことを伝えたつもり」になってしまうのに、逆に言われた部下の方は「どうしていいのか全く分からない」からです。それによって「前にも言ったじゃないか」「どうして言われたとおりにやらないんだ」という食い違いが生まれてしまいます。

 部下としっかり意思疎通しているつもりで、実はすれ違いのもとをつくっている上司は多いのです。