石田 淳
株式会社ウィルPMインターナショナル 代表取締役社長兼最高経営責任者

 IT関係の中堅企業に勤めるK氏は、昨年、企画制作の現場から人事部の課長職に異動になりました。

 そのK氏が、人事担当として最初に手がけたのがコミュニケーション研修です。というのも、K氏自身が、かねてから「社内の風通しが悪すぎる」と感じていたからです。

 企画制作部門では、直属の上司とはやりとりしても、自分がやっている仕事について同僚たちとはほとんど意見を交わしません。就労時間中は、一人ひとりがパソコンに張り付いているか、自分のクライアントと打ち合わせをしているかのいずれかです。

 そのため、ある社員が手がけている仕事が、ほかの人のものと内容が重複するという問題がときどき起きました。そういうときには、双方が「こちらが先に始めたのだ」と主張して険悪な雰囲気になります。圧倒的に普段からのコミュニケーションが不足しているのです。

 また、社員同士で挨拶もろくにしていないため、クライアントに対する基本的マナーが習得できない若手もいます。K氏は、自分が抱えている3人の部下に対してはうるさく注意しましたが、ほかのチームにまで口を出せません。K氏以外のマネジャー職は、そうした雰囲気を改善しようという気はないように見えました。

 人事部に移ったK氏は、自分の経験から「このままでは、目に見えない損失が大きすぎる」と訴え、外部から指導者を招いて行う研修の予算を確保することに成功しました。

 その研修講師は非常に話が上手で、渋々と参加していた社員たちの心を巧みにつかみました。終了時のアンケート調査を見ると、「とてもいい話を聞いた」「コミュニケーションの重要性がよくわかった」「明日から自分を変えたい」などと、肯定的な感想が多く寄せられました。

 実際に、翌日から社員間の挨拶量が目に見えて増えていきました。率先して、他部署との意見交換会などを設ける社員も出てきました。人事部長からは「そんなものに金を使って、本当に効果があるのか」と言われていただけに、K氏は「やっぱり、やってよかった」と胸をなで下ろしているところです。