石田 淳
株式会社ウィルPMインターナショナル 代表取締役社長兼最高経営責任者

 S氏は今年41歳。中堅広告代理店の制作部で働いています。10年前に結婚した妻と小学生の息子と3人で暮らすため、都内のマンションを購入したばかりです。

 仕事内容は、自由度が高い半面、個々人のクリエイティビティが求められ競争が厳しくなっています。4人いる部下はそれぞれ、自分が関わっているビジネスについて個人のフェイスブックやブログで発信しています。もちろん社外秘について触れるのはNGですが、もともと表現力が問われる仕事であり、宣伝になるので会社もそれを良しとしています。

 しかし、S氏は最近、部下たちを見ていて、いったいどこまでが仕事で、どこまでが個人の領域なのか、その境界線が曖昧になりすぎていることに懸念を感じるようになりました。

 部下たちは就業時間内でもしょっちゅう自分のサイトをチェックし、書き込まれるコメント内容を気にしています。「自分の記事がほかの人のものよりも注目されているか」に神経を尖らせているのがS氏の目にも明らかです。

 とはいえ、S氏自身も部下のことを批判できた状態ではありません。「自分の仕事に役立つと思って始めたけれど、それに時間を取られすぎる」と思いながらもフェイスブックをやめる勇気を持てずにいます。

 S氏の場合、妻もSNSに振り回されています。子どもの母親たちとLINEで連絡を取り合っていて、まさに片時もスマホを離そうとしません。

 残業が続いたある晩、それが元で大げんかになりました。疲れて帰宅し遅い夕食を摂っている目の前でスマホをいじられ、イライラが爆発してしまったのです。
「それ、今やらなきゃダメなのか。俺の話なんて全然、聞いてないじゃないか!」

 妻はS氏の剣幕に驚きながらも反論しました。
「私だってこんなことやりたくないわよ。でも、ママ友たちから外されたら子どもが大変な目に遭うの。だったらあなたが代わってよ」

 なんでも、ママ友からのLINEには学校の行事に関する重要な連絡事項が含まれていることもあり、軽い気持ちで読み飛ばしているわけにもいかないようなのです。また、すぐにコメントを返すのが暗黙のルールになっていて、妻なりにひどく疲弊しているというのが現実のようです。

 S氏は、せっかく購入した我が家にまで、見えない他者が入り込んでいるような不気味な感覚に襲われたと言います。