4月に入り、みなさんの職場にも新入社員がやってきたことでしょう。フレッシュな人材が加わることは楽しみな半面、憂鬱な気分にも陥るかもしれません。「ああ、また宇宙人のような若者に仕事を教えなければならないのか」と。

 もっとも、たいていのマネジャー職は、すでに覚悟ができていて、自分たちが教えられたのとは違うやり方で新人を教育すべく、しっかり準備を整えたことと思います。問題は、その準備がうまく機能するかどうかです。

 ある中堅資材メーカーで、商品管理部の課長職として勤務する男性A氏は、この4月から同部署に配属される2人の大卒新入社員の教育係を部長から任命されました。社会人としての基本的マナーなどは人事部主導の全社的研修で教えられるので、部署独自の仕事の流れについて教育を担当してほしいと言われたのです。

 多忙なプレイングマネジャーであるA氏にとって、正直なところ荷が重い仕事でした。しかし、自分の教え方に問題があって辞められるようなことになったら大変です。そこで、忙しい時間をぬって、仕事の流れを記したチェックリストや取引先の情報をまとめた一覧表などを作成し、ファイルにとじて1人1冊ずつ渡せるようにしておきました。

 そのファイルは、まさに「完全版」ともいえるような立派なもので、新人が質問してくるであろうことの答えは、すべて細かに書かれてありました。

 この完璧なファイルを渡すことで、新人教育に費やす時間が大きく短縮されると考えているA氏ですが、その期待は裏切られるかもしれません。

 A氏が「重要なことはここに書かれているから、しっかり読んでおいてね」と言えば、新人は「はい、分かりました」と答えるでしょう。そして、彼らはざっと目を通すでしょう。しかし、A氏が想像しているようには読みこなしてはくれません。

 そもそも、文字がびっしりと書かれたマニュアルなど、誰も読みたくありません。特に、今の若者は長い文章が苦手。ましてや、まだ経験していない仕事の流れなど、文字で示されたからといって正しく理解できるはずがないのです。

 つまり、読んでくれたとしても伝わってはいないということになります。

 ビジネスの現場で、中間管理職がよく口にする言葉に「言っておきました」というのがあります。
「ちゃんと言っておきました」
「厳しく言っておきました」
「自分の部下に言うべきことは言った」つまり「自分がすべき仕事はした」とアピールしているわけです。

 しかし、結果として部下の行動にそれが表れていないのなら、「言っていない」「仕事をしていない」と同じこと。大事なのは、部下の行動が望ましいものに変わっているかどうかです。

 A氏の場合も、そこが不十分なのです。