入社の決め手となったのは創業者や社員が一生懸命働いている姿

細川:会長は1977年に早稲田大学を卒業後、ナックに入社されていますが、入社の動機はどのようなものでしたか?

寺岡:昔はどんな企業もいろんな意味で、経営者サイドでものが作られていました。高度成長期で労働条件も守れていない状態でしたし、いろいろなアルバイトを通して、会社の実態が見えてしまうと「こんな会社に入って、こんな仕事をしたくないな」とか、「あの社長に使われるのは嫌だな」と思うことが多くありました。中小企業や大企業の実態を見た後に、たまたまナックで、創業者をはじめとする社員が本当に一生懸命仕事をしているのを目の当たりにしたんです。それこそ、全員にこの会社を伸ばすんだという気概が感じられました。

まだ従業員が20人くらいで、売上も3億円ないくらいの時に、アルバイトの仕事が終わると創業者に飲みに連れていかれて「この会社に来いよ」と誘われましたが、心の中では「こんな会社に入るために、わざわざ早稲田に入ったんじゃないぞ」と思っていました。周囲もある程度、名の通ったところに就職するので、私もと考えていましたし、家族が弁護士をやっていたので、司法試験に受かればそっちに行こうかなとも考えていました。

残念ながら司法試験は通りませんでしたが、1年半くらいナックでアルバイトをしているうちに、この社長は言っていることと、やっていることが一緒だと感じたんです。こうやるぞ、ああやるぞと言ったことが、半年後には実践されているわけです。大田区に行くと、世界のベアリングの7割を作っているような下町の工場がありますよね。そこには素晴らしい技術がありますが、我々に技術はありません。基本は人材です。「会社を伸ばして大きくしていくことが、世の中の役に立つことなんだ」と創業者が言うのを聞いて、ひょっとしたらこれは化けるかもしれない、2年くらいいてダメだったら転職でもすればいいやと思って入社して、今に至ります。

細川:当時、従業員の中に早稲田大学の法学部の出身者はいましたか?

寺岡:私、ひとりです。まず定期採用なんてないわけですから、大卒もいませんでした。

細川:その頃からダスキンはあったんですか?

寺岡:ありました。私も他のアルバイトさんや社員さんと同じように、一軒一軒訪問をして営業をして、配達をしていました。

細川:すごいギャンブルでしたね。

寺岡:私が車に乗って配達したり、営業したりしているのを、たまたま大学の同級生が見た時に「寺岡は苦労しているな」と思ったらしいです。

細川:就職する時にご両親からは何か言われませんでしたか。

寺岡:父も伯父も弁護士という法律一家でしたから「そんな会社に入れるために仕送りをしていたんじゃない」と大反対でした。でも10年くらい経つ間に、反対しなくなりました。当時は同級生も「お前、変な会社に入ったな」と言っていましたが、今では同窓会に行くと「お前はいいとこに入ったな。見る目があったな」と言われます。でも見る目なんてないんです。ギャンブルみたいなものですから。ただひとつ言えるのは、創業者や社員が一生懸命働いている姿を見て、ここは間違いないなと思ったということです。

基本で何でもないなと思うことをやり続けることが大事

細川:お客様のお困りごとに対応するわけですから、ご苦労も多かったのではないでしょうか。

寺岡:そうですね。どちらかというと、3K(きつい・汚い・危険)の仕事ですからね。でもそういう仕事だから、大手の資本がバサッと入って何かをやるのが難しかったんです。だから、我々のような会社が成長するチャンスがあったのかもしれません。

細川:順調にポジションを上げていく中で、人材育成に関してどのような課題がありましたか?

寺岡:例えばダスキンは全国2000店あるフランチャイズで、小さいところは月商何十万円、年間通しても1000万円いかないというお店も結構ありますが、我々はダスキンだけで100億円売り上げています。よく「ナックさんは違うね」とダスキンの他の加盟店さんから言われるのですが、本当は何も変わらないんです。うちの商品が他のダスキンの加盟店さんの商品より埃を取るわけではありませんし、安く仕入れられるわけでもありません。同じテリトリーで、基本的な値段も同じです。スタートは同じなんです。我々も4畳半一間から始めた会社で、我々も他の加盟店さんと同じ環境でやってきました。

何が違うかと言えば、一人ひとりに対する教育を熱心にずっとやってきたということです。今、朝礼を全国200店でやっていますが、これは創業の時からやっているものです。5分くらいの朝礼をしただけで何が変わるんだと思うかもしれませんが、これから仕事に入るという気持ちの切り替えができますし、必ず最後に所感を述べることで、大勢の前で話す訓練にもなっています。少し大きくなると今までやってきたことを変えたり、止めたりする会社がありますが、我々はそういう日常の何でもない訓練や集合研修を、手を抜かずにやってきたということだと思います。ナックだからといって、お客さんが解約をとどまってくれたりはしません。ただ、そういう場合のアプローチや会話の訓練をずっとやってきただけです。

細川:目的は現場力を高めるということでしょうか。

寺岡:そう、現場力を高めることですね。それから大事なのは基本ということです。今は人数が多くてできなくなりましたが、従業員が300人くらいまでの時は、朝礼だけの訓練を1泊2日でやっていました。軍隊のように誰かが一言でも間違えると、また一からやり直しです。つまり、たった一言でも大事なんだ、ということを教えるわけです。そして、ひとりが失敗したら大勢に迷惑がかかるということを分かってもらうためです。

細川:それがナックさんの成長の原動力なんですね。

寺岡:そこからスタートして、今もその形が残っていますから、それをやり続けているといえますね。そういう基本で何でもないなと思うことをやり続けることが大事だと思います。