もっと自由にやるために起業を決意

細川:起業のきっかけは何ですか。

河北:トヨタ自動車のプロジェクトに関わっていた当時はプロジェクト契約をするフリーランスでしたが、「現場が自ら成長し続けるために、どうしたら負担を軽減しながら継続的な仕組みを導入できるか?「人や組織のブランドや風土をデザインし、強い根っことしなやかさを持つために価値ある支援は何か」など、顧客から求められ私に答えがあっても、立場に縛りがあり実行不可能でした。その時に感じたのです。このプロジェクトに関らず、このままの立場で良いのか?「もっと役に立ちたい」「自由にやるにはどうしたらいいのか」を考えた時に、自分の立ち位置を変える、つまり会社を立ち上げればいいのだと気づいたのです。

 人やチームが自ら変革を選びイキイキと成長する組織に体質が変わってゆくこと。学習する組織となり、組織のビジョンやブランドと紐づき持続的な成長の原動力が得られること。これらを試行錯誤しながら開発、実行し実績を積み、フリーランス10年の期間の中で得た成功パターンを活かし、イノベーションアソシエイツという会社を立ち上げました。

 コーチングには起業前に出会いました。当時、常に戦い続け、走り続ける毎日は、将来のことを考える暇もなく、先が見えず煮詰まっていました。そんな時知人に、「今のあなたにきっと役に立つと思うよ」と仕事の先輩に勧められたのです。 私はそれまでも、教え込むのでなく自分で考え気づき学び、当事者として行動し、多様性を使い協働し、ありたい未来にむけて、自分を活かし行動し習慣化してゆく等、まるでコーチングの哲学や手法のように、お客様と接し、人や組織を開発してきていました。ですからコーチングを知ったときには「私だけじゃないんだ!」という嬉しさ半分、既に体系化されている知見が存在するという事実を知って、がっかり半分でしたね。自分のオリジナリティだと思っていましたから。

 ただ、コーチング理論を学んだことによりこれまで自分の暗黙知でしかなかったものが、より体系化され、意識的に使えるようになったり、更に深い世界観に触れるものになりました。コーチングとの出会いは私にとって大きなものでした。

細川:そのあと、組織風土コンサルティングの会社を作られたんですね。

河北:そうです。2003年にイノベーションアソシエイツを立ち上げ、組織開発や人材育成などを企業や自治体、医療施設など、あまり対象をフォーカスせず組織の目指すビジョンに合わせた、多様なイノベーションを支援していくという仕事をしてきました。

細川:河北さんは人材開発系の新しい事業をするとすぐに成功されますが、その秘訣は何でしょうか。

河北:ラッキーなんですね。そして、このように振り返って考えてみると、いつも優秀な方に示唆されたり、周囲の方に助けられていることに改めて気づかされますね。

細川:私は河北さんの強みが、そこにあったんじゃないかと思いますね。

河北:ラッキーですか?人から助けられることも含め、運はいいと思います!人材派遣会社に入ったときも、ただひたすらに、本当に自分のやりたいことを見つけたいという思いがありました。その時には「人の仕事が絶対に向いている」と言われることに自分は理解できませんでしたが、それでも、とりあえずやってみようかというような、青さというか若さ、素直さはありましたね。

細川:大きな怪我をしたときも、常に前向きでいられる、逆に周囲の人を元気づけられたというのは、河北さんの強みの現れだと思いますね。

河北:ありがとうございます。そう言われてみると、“元気づけられる” という言葉はよくいただきましたね。火傷の怪我を顔面に追った時に思ったのは、見た目は違うが「自分であることに何も変わらない」ということでした。本当に大怪我だったので、周囲の誰しもが、この人は社会復帰なんかできないし、かわいそうにと思っていたと思います。でも私は、本当にノウテンキに治ることを普通に信じていました。ショックなこともいくつかはありましたが、いろんなことが起こっても、もうこれ以上先に進めない、ということはありませんでした。むしろ、1日ごとに確実に治癒してゆく人間の生き物としての、おそろしいほどの本質的な強さに素直に驚き励まされました。

 余談ですが、事故から10年くらい経った頃、電車で隣に乗ったインド人のビジネスマンに、手の火傷の怪我について尋ねられたことがありました。そして「つらかったんだね」と声をかけられた時に、「そうか、私はあの時つらかったんだな」と初めて認めることができたのです。それまでは「私は平気」と自分をつっぱり抑えつけていたのだということに気づきました。それまで、自分はきっとどこかで自分のつらさを認められていなかったのだと思います。10年経って、ようやく完了でき次に進めた不思議な体験でした。

 あのときインドの方とたった10分語り合ったやりとりで友情が生まれ、そして自分の中で何かが変わりました。次のステージに行けたことを確かに自覚したのです。それから一度も会ったことはありませんが、あの感じは忘れられません。

細川:自分の弱いところ、つらい感情を認めることができたんですね。それも自己開示ですね。

河北:コーチングを学んだときもそうでした。それまでは“戦って”頑張っていたのですが、“戦わないで勝つ”ということを知りましたよね。期待されることに応えようと頑張り、自分の弱みは解決したくて仕方なかった。そもそも勝ち負けではないのですが、負けず嫌いであり、周囲に相談しないし、甘えるのが苦手、助けてと言わないタイプの人間でした。しかしもっと肩の力を抜いていいんだということに気がつきました。そして、実際に自然に助けてと言えたら、周囲がみんな助けてくれたのです。

 自分ひとりでガンガン突き進んで、気づいたら誰もいないというようなことも過去にはありましたから、イノベーションアソシエイツを創ったときには、強すぎの自我とスピードを捨てたのです。スピードとかではなく、バランスや多様性であって、チームで仕事をすることを重要視しました。その共に働くチーム自身を大事にして、私たちが多様性を活かし成果を上げることでやっていれば、きっとサービスやお客様にもリンクしてくると思ったのです。ですから、社内組織をつくる時には、組織開発系ではない専門性やキャリアを持ち、別のマーケットに人脈を持つ10歳年下の男性という、自分にない側面を持っている人と組み、新しい道を創っていこうと思いました。他のメンバー構成においてもその発想を大切にしました。