植田 寿乃
キャリアコンサルタント/ダイバーシティコンサルタント

 つい最近、ある地方銀行から、支店長・管理職向けの4時間講演を依頼されました。タイトルは「今、求められるダイバーシティ戦略~カギを握るのはイクボス上司」。講演前に、私と同年代である経営トップの方が本音を私に話してくださいました。下記はその内容です。

 数年前になりますか、仕事をがんばっている20代の直属の女性部下が辞めるということで面談をしました。「私は仕事で成長することを望んで入行しました。しかし、この銀行では女性が活躍できるとは思えません。経営者の考え方が古すぎます。だから私は辞めます」。この言葉を面と向かって言われた時に、ガツンとやられましたよ。うちの銀行は、まさにワイングラス型の人材構成となっています。45歳以上の男性が非常に多く、採用を抑制した時期があり30代が非常に少ない。そして20代の男性女性は多い。この20代が辞めてしまうのですよね。仕事の充実感を持つことが少なく、モチベーションが低くなっています。彼女の言葉に、すべてが凝縮されていると感じました。自分が経営トップになったら、絶対にこれを変えなくてはならないと強く思いました。だから、今日、先生に来ていただいているわけです。

 その表情はまさに真剣そのもので、組織への危機感を持っているようでした。そして、同じく人事を統括する経営陣の方も、10年前くらいに私の講演を聴いているとのことで、トップ以上に危機感と、組織を変えるためにすべきことを必死に模索しているように見えました。自分の会社が昭和タイタニック号になりかけていることに気づいたのです。

 しかし、彼らよりもいち早く気づき、行動を起こした人がいます。2年前に私の女性役席向け研修を受け、昨年8月に、地銀のダイバーシティ担当者向けセミナー「ダイバーシティ推進を成功させるための組織風土改革」に参加をした人事部の女性です。彼女は来月から育休に入るという大きなおなかを抱えながら、私との約1年ぶりの再会に飛び切りの笑顔を見せてくれました。自分の会社が、昭和タイタニック号から変わらなければ、彼女たちに未来はありません。だからこそ、彼女の本気の行動力が、この銀行での私の講演を実現させたのだと思います。

「安定・安住」が情報を遮断し、視野を狭め、
変化への抵抗感をあおる

 100名近い参加者はほぼ男性で、女性は6名ほどしかいませんでした。50代が30%を超えているこの銀行に役職定年はなく、60歳の定年前2年間は部下のいない状態になって定年を迎えるという形です。役職定年が当たり前になってきた現在、このような昭和型の人事制度を維持できるということは、業績が安定しているのかもしれません。しかし、維持できてしまうと、そこにいる人たちの意識は非常に変わりにくい。

 4時間におよぶ講演。40代前半の支店長と、50代後半の支店長たちの受講態度に、歴然とした差が現れていました。40代前半の支店長は、まさに組織に対する危機感を持っていて前のめり、かつ大きくうなずいてくれていました。よく見る光景です。しかし、50代後半の支店長たちは、どちらかというとほかの世界の話のように聞いています。

 「昔は本当に軍隊だったよ~。それよりは今はましだよな~」

 「俺は、どうせあと3年で定年だからな~、これからは大変だよな~」

 「世の中はそうかもしれないけど、うちは今のままでも何とかね~」

 私の講演の内容に反発しているわけではないけれど、共感もできていません。どこか他人ごとになってしまい、当事者意識が持てていません。自分の人生が「安定」していると、私たちはそこに「安住」したくなります。あえて、余計な情報を入れることをせず、視野が狭くなっていきます。つまり、安定・安住状態は、変化への抵抗感を増やしていきます。