現在の年次評価面談や階級制度は、約30年前のピーター・ドラッカー博士による「目標管理制度」(MBO)や成果主義制度をベースとして形作られてきました。ドラッカー博士が提唱し、目指したものは、「部下の目標設定への参加と目標に対するコミットメントによって、目標達成に向けた部下自身による主体的な行動を導き出す」ことでした。

 しかしながら、ここにきて目標管理や成果主義人事制度は、「やらされ感」の強い、モチベーションを阻害する制度として酷評され、ドラッカー博士が目指したものとは全く逆の制度と評価されるようになりました。目標至上主義がもたらした「東芝問題」や最近の自動車排ガス不正問題の頻発などもこうした人事制度がもたらした負の側面ともいえそうです。

 高邁な目的を持って導入した人事制度が、なぜ見直される事態に至っているのか? 「手段の遂行が目的化してしまった」のだと思います。目的となった「目標管理面談」は、業務よりも優先して実施することを求め、下位10%を退職対象とするスタックランキングシステムもGEをはじめ多くの企業で導入されるようになりました。このような制度の中ではエンゲージメントが高まるはずもありません。

 現在、パフォーマンス・マネジメントの見直しを進めている代表的な企業としてGEとAdobeの事例を紹介します。

 GEでは、下位10%が退職対象となる制度は既に廃止していましたが、その基盤となる年次評価の仕組みは残っており、マネージャー層は1年に1回の評価ミーティングを行っていました。年1回の評価では、変化していく時代に対応できないとして評価制度の改革に取り組んでいます。

 新しいシステムでは、「評価をやめる」をキーワードに、マネージャー層はより柔軟にコーチングを行い、定期的にフィードバックを行うように変更しています。このためのアプリケーションを導入して全世界に展開中とのことです。

 一方、Adobeは、継続的にフィードバックする仕組みとして「チェックイン制度」を導入しました。複雑な評価用紙やアンケートを廃止し、マネージャーに自身のチームと実際にコミュニケーションをとる時間を多く与えることを求めています。マネージャーは、従業員に何を期待しているかを明確に伝え、フィードバックを与え、また受け取り、従業員に職業上の発展の機会を提供することをキーファクターとします。また、チェックイン制度の形式と頻度は、完全にマネージャーに任されます。この制度の導入により、主体性を持つ従業員が増え、自主退職が30%減少したとの報告があり、制度導入の効果が数字となって表れています。

 成果主義人事と目標管理の象徴でもあったGEが、「評価をやめる」と言い出したことは、1つの時代の終焉ともいえる大きな出来事でしょう。

 そして、その具体的な取り組みとして注目されているAdobeの事例ですが、私は、この取り組みを見て、ドラッカー博士が目指していた「目的」と何ら変わらないことを感じます。

 今の時代の新しい手段として、GEのように思い切って「やめる」という選択があり、Adobeのように新しい時代に合致した方法の導入があるのだと思います。

 人事部門に従事する人にとっては、従業員やマネージャーのエンゲージメントが高まる制度、言い換えれば本来の目的を実現するための改訂に取り組める、絶好のトレンドが到来したのではないでしょうか。

安藤 良治(あんどう・よしはる) PSマネジメントコンサルティング 代表
安藤 良治

 1956年生まれ。メーカー系ソフトベンダに入社し、27年間教育、採用、組織・人事と人事畑一筋に歩んできた。その間、インフォーマルグループ“夢現会”を社内に立ち上げ、社員の自立化、第一人称で自社を語る人財の育成に力を注ぎ、人事部長を経て2005年に独立。独立後は、仲間と実践的な問題発見・開発技法「創造的実行プロセス(B-CEP:ビーセップと呼ぶ)」の開発と普及を柱に、プロジェクトマネージャー能力強化研修、ビジネスアナリシス実践研修、ITリーダー研修、ITシミュレーション研修、PBL型新人研修(3ヶ月)の運営責任者等を担当している。また、NPO法人ITスキル研究フォーラムの人財育成コンサルタントとして“人財育成のツボ“の情報発信や、一般社団法人IT人材育成協会(ITHRD)において「ラーニングファシリテータ育成」プログラムの開発と普及活動を行い、主としてIT業界の人材育成に注力した活動を行っている。

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。