評価調整会議を全社的に禁止。煩雑な評価の工程をシンプルにする

――例えば、新たなテクノロジーを入れることで生産性を上げる企業も増えていますが。

黒川:人事関連の話になりますが、グローバルで全社共通で「Workday」というシステムを導入し、評価制度の仕組みも大きく変更しました。当社は、数多くの事業部と部門を抱えるため、評価には非常に多くの行程を要していました。例えばWorkday導入前は評価結果を組織のあらゆる階層で調整するために膨大な時間とリソースをかけて会議を行っていました。ところが昨年からはこの評価調整会議を全社で禁止しました。

 理由はシンプルです。そもそも評価というものはきちんとしたマネジメントができていれば調整する必要などないものであることが分かったからです。つまり各リーダーやマネージャーが部下を日々しっかりと見て適切な評価を付け、それを上長がサポートすれば必要ないのです。フロントラインマネージャーとそれを管理するシニアなマネージャーとの信頼関係向上にもつながります。調整会議を禁止した昨年からは、より上司と部下が会話を多くするようになっています。

――上司が評価の上書きするのを禁止するというのは、ずいぶん思い切った改革ですね。

黒川:去年は大変でした(笑)。ただ、フロントラインのマネージャーからは、好意的な意見が多かったのです。以前は、自分が決めた部下の評価を上長がコミュニケーションもなく勝手に上書きすることに不満があったけれど、これだと自分のつけた評価に責任が持てると。結果的に、マネージャーの自立やマネジメント能力を高める効果がありました。また、これまでフロントラインのマネージャーには部下の給料を公表していなかったのですが、システムを変えたことで全部見えるようになりました。マネージャーには、報酬に対する考え方のトレーニングなどを行った上で新しい評価体制に切り替えています。

――評価の項目自体に、働き方改革に関する項目も入れているのですか?

黒川:事業カンパニーにもよりますが入れています。チームを持つマネージャーや、特に残業時間の多い社員については、目標設定の1項目として、残業時間削減に関する項目も入れるようにしています。

――“働き方改革を進めたいけれど、思うようにいかない”という企業担当者の声をよく聞きます。取り組みを前進させるには、何が重要だと思いますか?

黒川:やはり、トップがしっかりコミットし、行動し続けることだと思います。ですが、あくまでも主導となって進めるのは、社員であるべきです。生産性を高め、仕事を早く終えることで、プライベートも充実し、健康になる。それにより、もっといい仕事ができる。働き方を変えることは、自分にとってのベネフィットだと感じてもらうことが大事です。そうでないとなかなか進まない気がします。

 長時間働いて成果を上げるというカルチャーで育ってきた40代以降と違い、「ミレニアルズ」世代と呼ばれる最近の若者は、プライベートを非常に重視し、考え方も上の世代とはずいぶん違います。彼らから、これまでの働き方に疑問の声が挙がっていたので、「それなら自分たちで何か活動してみたら?」と背中を押したところ、キャリア形成や働き方など、様々なテーマを自分たちで設定し、社内のロールモデルに話を聞いて皆でディスカッションなどを行っています。

 人事としてやれることは、社員に変化のきっかけを与えること。そのために、生産性や健康に関する様々なイベントを続けています。今後も、社員が自分たちで働き方を変えるメリットに気がつき、行動を促すための仕掛けづくりを行っていきたいですね。

麓 幸子(ふもと・さちこ) 日経BP社 執行役員
麓 幸子

1984年筑波大学卒業。同年日経BP社入社。88年日経ウーマンの創刊メンバーとなる。2006年日経ウーマン編集長。12年ビズライフ局長。日経ウーマン、日経ヘルスなど3媒体の発行人となる。14年日経BPヒット総合研究所長・執行役員。15年日経BP総合研究所副所長。2014年法政大学大学院経営学研究科修士課程修了。内閣府、林野庁、経団連・21世紀政策研究所研究委員などを歴任。筑波大学非常勤講師。一男一女の母。著書等に『女性活躍の教科書』『なぜ、あの会社は女性管理職が順調に増えているのか』(日経BP社)、『企業力を高める―女性の活躍推進と働き方改革』(共著、経団連出版)、『就活生の親が今、知っておくべきこと』(日本経済新聞出版社)などがある。

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。