小さな声でうつむいたまま私は言いました。「はい、わかりました、やってみます」と。その言葉を聞いて上司はいくぶん顔を和らげてこう言ってくれたのです。

「目の前にあるチャンスはつかんでみなさい。
挑戦してだめだったら俺がお前をすぐに降格させてやるよ。
落とすのは簡単なんだ。けれど、自分にできるかできないかはやってみてから返事しろ!全部はお前の経験と財産になるのだぞ」と。

 わたしは上司の言葉に動かされたのです。やってみなくちゃできないなんて言ってはいけないということを上司の言葉で学んだのです。そしてそのきっかけをスタートにして私はその言葉に動かされたまま女性初の支社長になり多くの部下を育てることとなったわけです。そして自分が部下に「そろそろ部下をもってみたら?」と言うときには必ずこのエピソードを話しました。

 そして、「やってみたらできることが世の中にはたくさんある」ということを伝えたのです(もちろん顔を真っ赤にして机を叩いたりはしませんでしたが…(笑))。

 今、部下を持っている方や経営者の方で、もし過去に弱い自分がいて、そのとき自分の心を突き動かした体験があったなら、ぜひわかりやすい言葉でその体験を部下に伝えていただきたいです。もちろんそれは決して押しつけではありません、ましてや、「オレはこんなに頑張ってきた」という武勇伝を自慢することなどは論外です。そんな態度で接してしまうと心を動かすどころか嫌われるか、器の小さな人として(相手の心のなかで)バカにされるだけです。

 経験を積んで知識が増えてくると過去のことは単純すぎてわかりきった当たり前のことになってしまいます。そして複雑な言い方や複雑な知識を使いたくなってしまいます。でもそれは自分の自己満足に終わります。人の心を動かし、つかむためには相手の満足を一番に考えてわかりやすく納得のいく指示が求められるのです

 さて、私は上司になってからも相手の得のために動くように意識していました。そのためには「部下をお客様だと思うこと」が重要でした。お客様に対してもやる気を出してもらい、未来にわくわくしてもらい、決断して行動していただけるように促しますが、これは同時に部下にもいえることだからです。

 モチベーションを上げてより多く決断し行動してもらうには、会社の売り上げがどうとか、私の立場がどうとかで動機付けをするのではなく「あなたがもっと成長できるように」「あなたがもっと楽しくなるように」「あなたがもっと稼げるように」何をすればいいのか?という気付きが重要です。気付きは「やる気」の動機付けになるのです。だからこそ「自分の人生は自分でしか責任が取れないのだから自分で考えて決めて欲しい」と自立させていくのです。