⑩心理的安全の阻害

 チームパフォーマンスを向上するためには、自分の思ったことを気兼ねなく発言できる雰囲気(心理的安全)が不可欠であるという、ハーバードビジネススクールのエイミー・エドモンドソン教授の有名な研究結果があります。ところがレーティングは、従業員間に競争のメカニズムを持ち込むものであるために、組織の心理的安全を阻害してしまいます。特にスタートアップビジネスにおいては、多様な人材によるコラボレーションが重要になるため、チーム内に心理的安全が存在することが、チームパフォーマンス向上のための不可欠な前提といえます。

短期業績 > 能力・行動

 レーティングはその期の業績に応じた短期評価です。期末の評価会議などにおいて、レーティングを決定するために多大な時間が費やされていますが、その労力が有益に用いられているとはいいにくいのが実情です。

⑪評価エラーの多発

 昇格の判断は短期業績によって行われるべきものではありません。例えば、マネジャーへの昇格は、本人にマネジメントの能力やチームを率いるリーダーシップがあるかどうかで判断されるべきものです。しかし、年次評価のレーティングをもとに3年連続A評価以上であれば昇格といったようなルールを定めている企業も少なくありません。その結果、本来はマネジャーの要件を満たしていないにもかかわらず短期業績がよかったために昇格したり、その逆に昇格すべき人が昇格できなかったりする、「評価エラー」が多発してしまうことになります。明確なルールに従って昇格を決めているため、一見、公平のように感じられますが、組織にもたらす悪影響は少なくありません。

⑫育成議論の不足

 評価会議における議論は過去を見ています。その人が今期、何をしてどのような業績を残したかという過ぎたことをもとに採点するのです。人材開発のためには本来、この先、本人にどのような経験を積ませ、何を学ばせたいかという未来指向の議論が必要です。しかし、AかBかというレーティングを決めるための過去の議論にばかり終始し、人材開発の議論がほとんどなされていない企業が少なくありません。その結果、組織のなかに人材開発カルチャーが育まれず、無機的な目標管理・評価制度が延々と維持されることになってしまいます。

 さて、読者の皆さんの会社では12の問題点のうち、いくつが該当したでしょうか? 多くの問題点が当てはまるのであれば、それをそのまま放置するのではなく、新たな発想でパフォーマンスマネジメント改革の検討を始めることが必要です。

松丘 啓司(まつおか・けいじ) エム・アイ・アソシエイツ株式会社 代表取締役
松丘 啓司

 1986年東京大学法学部卒業後、アクセンチュア入社。同社のヒューマンパフォーマンスサービスライン統括パートナーを経て、2005年に企業の人材・組織モデル革新を支援するエム・アイ・アソシエイツ株式会社を設立。同社ではパフォーマンスマネジメント、ダイバーシティ&インクルージョンなどの領域を中心にサービスを提供。主な著書として、『人事評価はもういらない』『論理思考は万能ではない』『アイデアが湧きだすコミュニケーション』『ストーリーで学ぶ 営業の極意』『提案営業の進め方』『組織営業力』などがある。

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。