成果主義人事がもたらした最大の問題はマネジメントの空洞化にあるといっても過言ではないでしょう。その昔、バブル経済が崩壊した1990年代前半以前は、日本企業における経営の特徴は「ミドルアップダウン」にあるといわれていました。特に大企業では、ミドル層が戦略や重要施策に関する企画を立て、それを上層部に諮って会社の方針として下すといったように、実質的な意思決定はミドルが行っていた企業が少なくありませんでした。予算も含めてミドルが持つ裁量権は大きく、ミドルがチームを束ねて企画から実行までをリードしていたのです。

 しかし、バブル崩壊から成果主義人事導入に至る過程において、ミドルの裁量権は上層部へと吸い上げられていきました。日本企業もアメリカ企業のようにトップダウンで即断即決の意思決定をすべきである、といった当時の論調もそれを手伝いました。いずれにせよ、国内の経済成長が止まり、グローバリゼーションが加速するなかで、トップダウンで構造改革を進めなければ立ち行かない状況になっていたのは事実です。その結果、ミドルは文字通り「中間管理職」として、上から下りてくる目標が達成されるように管理する役割を担わされることになったのです。

 成果主義人事の期間が20年ほど続いたことによって、企業のなかには管理は得意だがマネジメントの経験が欠如しているマネジャーが大半を占めるようになっています。今後、ますますイノベーションが求められる経営の転換期にある今日、現場におけるマネジメント力強化は喫緊の課題です。ミドルが変わらなければ、メンバーのマインドや行動は変わらないからです。その際、過去のよき時代のミドルに戻ればよいわけではありません。これからの時代に適した「ピープルマネジメント」の開発が求められているのです。

管理者から支援者へ

 目標管理型のマネジメントの特徴は、動機付けの方法が極めて外発的であるところにあります。部下に高い目標を設定させて目標の達成度で評価するという方法は、難しい問題を出して点数が高ければよい成績を付けるという試験勉強の動機付けと似ています。「高い点数を取ったらご褒美をあげるのでがんばれ」と動機付けるわけですが、がんばりの部分は本人に委ねられています。

 厳格な目標管理の手綱を緩めると業績が下がってしまうことを恐れるマネジャーも少なくありませんが、もともとマネジャーが行っているのは入口(目標設定)と出口(達成度による評価)を管理しているだけです。肝心の途中のプロセスでパフォーマンスを高めていく部分は本人任せになっています。

 成果主義人事によって、このような「採点官マインド」がまん延しています。「目標は上から下すものだ」と公言するマネジャーがいますが、試験を教師が出す(=目標を上から下す)ことは採点官マインドからすると当然の発想です。また、「モチベーションは自分で上げるものだ」と主張するマネジャーもいます。これも、採点官が試験中に生徒を励ますことがないのと同様です。

 もしかすると、マネジャーが途中のプロセスを支援したら本人の実力が分からなくなることを危惧している人がいるかもしれませんし、あるいは、部下の誰かだけを支援したら不公平になることを心配している人もいる可能性があります。しかし、それらは全く無意味な心配です。マネジャーの役割は、そもそも部下の実力を採点することではなく、部下のパフォーマンスを高めることによってチーム全体のパフォーマンスを高めることにあるからです。