生産性向上の限界

 様々な企業において長時間労働が問題視されています。ワークスタイルを変えようとする取り組みが何度も行われても一向に改善しない原因の一つとして、パフォーマンスマネジメントの仕組みがあると筆者は考えています。

 多くの会社では目標設定の段階で、全社の業績目標を部門に配分し、それをチームに配分し、最終的には個人にまで配分しています。それによって、個々人が目標を達成することを通じて全社の目標が達成されると考えられています。個人に配分される業績目標の達成を確実なものにするために、中間的な指標が設定され、その進捗状況が管理されます。その中間指標は、例えば営業であれば訪問件数や提案件数といった、定量的な指標が中心です。

 このような管理体系の下で各人が目標を達成しようとすると、インプットの量(労働時間)を増やすことでアウトプット(成果)を増やそうとするメカニズムが働いてしまいます。事実としてこの20年間、日本における平日1日当たりの労働時間は右肩上がりで増え続けています。IT活用などによって業務効率が改善しているにもかかわらず、労働時間が増え続けているのは、インプットの量が増えているからにほかなりません。

 このやり方で、これ以上の生産性向上を実現することは困難です。投入できる時間には限界があるからです。つまり、そこにはもう伸びしろがありません。しかし、ほかにまだまだ伸びしろのある領域があります。それは、個人の意欲や能力なのです。

 業績目標を上から配分するマネジメントでは、数字を見ているだけで、個人の内面は見ていません。一人ひとりがどうすれば意欲を高めるかといった個人の動機や、個々人によって異なる強みは考慮されていません。そのため、企業が今後、さらに生産性を高めるためには、伸びしろのある個人の意欲や能力を引き出していくことが不可欠です。そのために、「ヒト重視」のパフォーマンスマネジメントが必要とされているのです。

松丘啓司氏の新刊
『人事評価はもういらない‐成果主義人事の限界』
ファーストプレス、2016年10月
松丘 啓司(まつおか・けいじ) エム・アイ・アソシエイツ株式会社 代表取締役
松丘 啓司

 1986年東京大学法学部卒業後、アクセンチュア入社。同社のヒューマンパフォーマンスサービスライン統括パートナーを経て、2005年に企業の人材・組織モデル革新を支援するエム・アイ・アソシエイツ株式会社を設立。同社ではパフォーマンスマネジメント、ダイバーシティ&インクルージョンなどの領域を中心にサービスを提供。主な著書として、『人事評価はもういらない』『論理思考は万能ではない』『アイデアが湧きだすコミュニケーション』『ストーリーで学ぶ 営業の極意』『提案営業の進め方』『組織営業力』などがある。

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。