機敏に学習する働き方が求められる

 会社や人事が細部まで決めるいわば「大きな政府」では、現場の意識が会社頼りになってしまい、自律的で機敏な判断や行動が促進されづらくなります。年次評価廃止の取り組みは、いわば「小さな政府」への転換といってもよいでしょう。年次評価を廃止した新たな制度は非常にシンプルです。そこでは、上から具体的な目標や詳細な評価基準が与えられるのではなく、現場が重要と考える目標が設定され、現場が価値ありと考える成果が評価されます。

 そのことは、もちろん会社が何もしないということではありません。ビジネスや組織全体の目指す方向性はより明確に示されなければなりません。しかし、不確実性の高い環境のもとでは、具体的に何をすれば成功するかは、実際に現場でやってみないと分かりません。そのため、現場において仮説を立ててやってみて、その結果から学ぶという経験学習が重要となります。つまり、現場の自律性が不可欠になるのです。

 そこでは、いかに経験学習サイクルを機敏かつ効果的に行うかが問われます。うまくできた、できなかった、それはなぜか、といった対話を頻繁に行って、目標設定とフィードバックを繰り返し、多様な人々の視点やノウハウを取り入れながら最短で成功の方程式を構築し、成果をあげていくことが求められます。ただ上から言われたとおりに長時間働いたり、忙しそうに振る舞ったりしているだけで評価されることはありません。

チェンジマネジメントとピープルマネジメントが成功要因

 既に年次評価の廃止を行った企業(現時点ではほとんどが外資系企業)の話を伺うと、その中にもうまくいっている会社と苦戦している会社があることが分かります。その差がどこにあるかを整理すると、以下の2点が成功要因として考えられます。

①導入時のチェンジマネジメント

 上述したようにこの取り組みは単なる評価制度の変更ではなく、働き方や組織風土の変革に向けた取り組みです。その変革の意味を全社員、中でも中核となるマネジャーが十分に理解していることが不可欠です。現場における裁量が大きくなるため、変革の意図が理解されていなければ運用できないからです。

 新しい制度の導入に際して、制度がこう変わると説明するだけでは変革の意図は浸透しません。特に、これまでの制度のもとで高い評価を得てきたマネジャーが抵抗する可能性もあります。評価の基準が曖昧になってしまうように感じるからです。そのため、新制度の導入にあたっては、自分たちの事業においてなぜこの変革が必要とされるのか、これからの働き方はどうあるべきか、マネジャーにはどのような役割が求められるかといった点について、一人ひとりが考えたり、皆で話し合ったりする機会を提供することが必要です。導入に成功している会社では、そのような参画型でのワークショップが頻繁に開催されています。