松丘啓司
エム・アイ・アソシエイツ(株) 社長

 昨年の10月に『人事評価はもういらない』という本を出版して以来、多くの企業の方々と年次評価の廃止(No Ratings)について意見交換をさせていただく機会がありました。このテーマについて研究を始めている会社は少なくありませんが、まだ自社には関係ないと考えている会社も現時点では多くを占めています。研究だけでなく具体的に検討を開始している会社はごく一部で、既に実施を試みている会社に至ってはそのまた一部に過ぎません。

 既に実施を試みている会社では、従来の評価制度の問題を放置するのではなく、とにかくトライアルからでもやってみようとアジャイルなアプローチで取り組まれています。一方で、研究もあまり行われていない会社では「できない理由」を最初に聞かされます。今後、年次評価の廃止に対して積極的な会社と消極的な会社は、2つに分かれていくことが予想されます。

 もちろん、すべての会社が年次評価を廃止しなければならないというわけではありませんが、少なくとも研究すべきテーマであることは間違いありません。なぜなら、このテーマは単に評価制度に閉じた話ではなく、これからの社員の働き方や組織風土のあり方と密接に関わるものだからです。

年次評価廃止のねらいは働き方の変革にある

 これまでの多くの評価制度では人事部門が評価の基準や配点を精緻に定義し、現場ではそれをきちんと運用することが求められました。評価の対象となる個人の目標も、会社全体の目標が上からブレークダウンされ、個人にまで落とし込まれたものでした。つまり、目標も評価基準も上から与えられたものだったのです。その結果、仕事とは上から示された指針に従って行うものという意識が強化されてきたといえます。

 与えられた目標を達成することが仕事であるという考え方は、働き方にも大きな影響を及ぼします。そのマイナス面を見ると、目標を確実に達成するためにできるだけ失敗しないようにしようというリスク回避の意識が生まれやすくなります。また、たくさんの宿題を与えられた子供と同じように、仕事を仕上げるために長時間働くことが促されます。けれども仕事の成果については、人並みの成果を出していれば人並みに評価されることから、ほどほどで良かろうと考える人も出てきます。

 年次評価を廃止することの大きなねらいは、そのような働き方を変革することにあるといってもよいでしょう。