辻本 光邦
株式会社 インサイトパワーズ 代表取締役

 筆者は1991年以来、企業の人財育成に取り組んできた(あえて“人財”育成と記す)。2010年、株式会社 インサイトパワーズを設立し、企業の選抜研修における支援を本格化させたが、この間、特に30代の管理職やチームリーダーへの選抜研修に求められる研修方法と支援内容に大きな変化を感じ取ってきた。

 それは、“受講者個別の支援”と“組織との連動(=受講者上司の研修への参画)”を組み合わせた、経験学習に根差した支援が急速に増えてきたことである。この学習法が環境変化に速く適応する人財育成法であると、企業は考え始めたのである。

 この変化に対し、弊社は2013年に1 on 1®(ワンオンワン)を商標登録し、企業の人財育成分野における1 on 1として、本格的にサービスを開始した。

 今年、『ヤフーの1 on 1』が刊行され、同社の取り組み事例が話題になっている。1 on 1とは上司と部下、1対1のコミュニケーションによる、部下育成のための制度化された面談機会である。これは筆者が在籍していた日本マイクロソフトでも実施している部下育成の施策で、この機会が制度化されていること自体、上司と部下のコミュニケーションの質的側面の向上に大きく貢献していると当時から感じていた。

 私はこのアイデアを企業研修の場に応用することに早くから着目した。受講者と講師との面談を設定し、そこに上司を参加させる1 on 1を開発し、研修に取り入れたのである。これには個々の受講者との1 on 1、上司との1 on 1、上司と受講者の現場での1 on 1の進め方に対する助言などが含まれる(詳しくは本稿第3回で述べたい)。

 顕著な成果を知り、最近では管理職向けに1 on 1スキル研修を要請されることが増えていることからも、企業の期待は大きい。しかし、効果を生み出すにはノウハウがある。ただ単に個別に面談すればよいというものではない。そのために本稿では特に顧客企業の許可を得て、研修への1 on 1導入方法とその効果に関する事例紹介を本稿第4回以降に予定しているので、ご期待いただきたい。

 本稿が読者諸氏の企業における研修企画の参考になれば幸いである。本稿全体では以下のテーマでの掲載を予定している。

第1回(今回):環境変化で顕在化した、人財のギャップと育成方法の課題
第2回:「他流試合に行ってこい!」のわな~今、求められる研修の実施基準
第3回:成果を出す経験学習~1 on 1®とは
第4回:選抜研修での1 on 1®導入事例~実務に焦点を当て
    上司を巻き込み解決を促す
第5回:経験学習の事例~事例から育成のポイントを見いだす
第6回:企業研修に経験学習を取り入れる~持つべき視点と施策

 第1回の今回は、「環境変化で顕在化した、人財のギャップと育成方法の課題」を考察する。企業が直面する外部環境の急速な変化により、人財に求められるスペックが変化した。変化は速く、迅速に適応するには多くの課題がある。ここでは、人財育成の視点と施策を考える前提となる、顕在化したギャップと育成の課題について読者諸氏と認識を合わせたい。