チェリー工場のマネージャークラスやワーカーたちは、相変わらず私を「業務の枠を越えていろいろやってくれる“通訳”兼、出荷業務を手伝う“アシスタント”」だと思っていて、業務改善をしにきたコンサルタントやアドバイザーという認識ではなかった。
当然“権限”もない。

もちろん、ライン稼働前にワーカーにレクチャーをする機会などもなく、前年と同じようにバラバラと集まってきた季節労働のワーカーたちが、単純作業の指示しか与えらないままに作業を開始していた。
一度ラインが動き出してしまったら、レクチャーをするタイミングなどない。改めてレクチャーの機会を設けるのは現実的ではなかった。

トランシーバーですら、用意されていなかった。
工場の敷地はとても広く、携帯電話やWiFiの電波が届かないエリアがあちこちにある。前年はトランシーバーがなかったから、何か用事がある度に、伝書バトのように工場内をあちこち走り回っていた。それだけで時間も体力もムダに消費する。
もちろん、みんなが走り回っていたわけではなく、チェリー工場のラインマネージャーやチーフたちはトランシーバーで連絡を取り合っていた。
単に、これまで西海岸カーゴ社のスタッフにはトランシーバーが支給されていなかっただけのことだ。

これでは、また一から、私の役目をみんなに理解してもらうところからスタートしなければいけない。
チェリーの期間は約1カ月半しかない。
いや、この収穫量の少なさを考えると、1カ月程度で終わってしまう可能性が大きい。

大凶作で量が少ないだけでなく、チェリーの質もあまりよくない。
ワーカーたちの活気もイマイチだ。
生産量が少ないので自然と労働時間も短くなる。時間給で働く季節労働のワーカーたちの中には、もっと稼げる仕事を探して早々に他の仕事に流れていってしまう人もいた。

西海岸カーゴ社は、「業務改善をして欲しい」と言いながら、基本的な3つの条件の準備さえしていない。
もう、社長を責める気にもなれなかった。

1年目同様、2年目のチェリーシーズンも、私はどーんと突き落とされた状態からのスタートだった。

一体、何をやれというんだ? 何をどうしたいんだ…?

2013年(左)と2014年(右)のチェリー畑の違い
井ノ上 美和(いのうえ・みわ) BPIA(ビジネスプラットフォーム革新協議会) ナビゲーター、ジョーシス 顧問
井ノ上 美和

メキシコ、スペイン在住歴6年のラテン系。
通信ベンチャー、医療用具メーカーなどの国際ビジネス業界で、オペレーション・営業のマネジメント、採用・社員教育、ISO/FDAの品質監査、広報、システム構築など、様々な業務に携わった経験を活かし、海外および国内企業で業務・組織改善、人財育成などのコンサルティングや研修を行う。
学習院大学、HAL東京などの教育機関や大手IT系企業を中心に、人生観や生き方をテーマにした講演会も展開。
スペイン語の通訳翻訳業では、ビジネス通訳のほか、フジテレビ「奇跡体験!アンビリバボー」などメディア出演も。

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。