実際、彼は以前よりテープを確実に丁寧に貼ってくれるようになっていた。
だから私はその時まで、少年の耳が不自由だったことに気がつかなかった。
ただちょっと恥ずかしがり屋さんだから、笑顔で挨拶を返してくるだけで、話しかけてはこないのだろうと思っていた。

彼はとてもいい少年で、すぐに仲良くなった。遠くからでも目が合えば、いつも手を振って笑顔で応えてくれた。仕事も丁寧でミスもなく、彼がテープ貼りを担当してくれている時は安心して任せられた。

声なき声に気づくことの大切さ

そんなある日。 私がパレッタイズのセクションでベルトコンベアを流れてくる製品のチェックをしていると、やたらと封印テープの切れ端がぐちゃぐちゃでひどいコンディションのカートン箱がいくつも流れてきた。

「こりゃひでぇな」

と、パレッタイズのワーカーも呆れ顔になった。
それでも、そのままパレットに積まれてしまっては困るので、ブーブー言うパレッタイズのワーカーをなだめて、封印テープの貼り直しを頼んで、テープ貼りの場所へ走った。
おそらくまた新人が入ったのだろう。

ラインのワーカーは、ほとんどが日雇い労働だ。大半のワーカーは定着していたけれど、中にはほんの数日で辞めてしまう人もいて、その度に新しいワーカーが入ってきた。

“単純作業”をする者に、わざわざ新人研修はなく、むろんマニュアルなどもなく、いきなり現場に送り込まれて、作業にとりかかる。
パレッタイズのように、すぐ隣に先輩ワーカーがいてくれれば、丁寧に…とまではいかなくても、基本的なことや注意しなくてはいけないことくらいは教えてもらえる。
けれど、テープ係のように通常1人で担当する作業だと、誰も細かいことを教えてくれる人がいない。最初にマネージャーかチーフからごくごく簡単な指示を聞くだけだ。

せっかくワーカーに色々説明して教育しても、人が入れ替わってしまっては意味がない。いちからやり直しだ。
「また新人さんに最初から説明しなくちゃ」と思いながら、私はテープ貼りの現場へ向かった。

けれど、そこにいたのはいつものテープ係の少年だった。
ラインを流れるカートン箱の量は確かに多かったけれど、それでも彼があんな雑な仕事をするわけがない。
すぐ、少年のところに行って、

「どうしたの?」

とジェスチャーをして聞くと、彼はしきりにテープカッターの刃を指差した。
テープカッターをよく見ると、カッターの刃先が見事に歪んでいた。

1日数百〜数千箱にテープをかけるのだから歪むのも当たり前だ。
私はすぐに新しいテープカッターを探して、少年に渡した。
少年は笑顔で仕事に戻った。

少年の近くには、他にも別の作業をしているワーカーが何人かいた。
けれど、彼には

「カッターの刃がやられた。新しいカッターをください!」

と言葉を発することができない。

下っ端の若いワーカーが、勝手に持ち場を離れることもできない。カートン箱は次々と流れてきているのだ。
だから、少年は、カッターの不調を訴えることもできず、そのまま切れ味の悪いカッターで作業を続けるしかなかった。

でも。
この少年がどんな仕事をするかを知っていれば、彼の仕事っぷりを注意深く見ている人がいれば、何かがおかしいとすぐ気づいたはずだ。