ところが、パレッタイズの人にもっと注意して作業をしてもらえば?という私の提案はあっけなく却下された。

「ムリ、ムリ。」

「え?なんで?」私が聞き返すと、

「あいつらメキシコ人だもん」そう返された。

誤解のないように言っておくが、「どうせメキシコ人だから、どうせ単純作業の労働者だから」という先入観を持っていたのは、西海岸カーゴ社の日本人スタッフだけではない。
いいか悪いかは別として、アメリカ社会では、ヒスパニックの人間に対して「どうせあいつらはヒスパニックだから」という意識があるのは確かだ。

このチェリーの工場では、経営陣やマネージャークラスはアメリカ人だったが、ラインのワーカーのほとんどがメキシコ人を中心とするヒスパニック系あるいは低学歴のアメリカ人で、上層部のアメリカ人たちも日本人スタッフと同じような偏見をラインワーカーに対して持っていた。

ラテン系というと、陽気で大らかだけれど、時間にルーズで、怠け者というのは、当のラテン系の人々も認める世界共通のイメージだろう。

けれど、メキシコに5年住み、メキシコのいいところも悪いところも、様々な面を見てきて、優秀なメキシコ人の友達が何人もいる私にとって、“メキシコ人だからムリ”という回答は受け入れられるものではなかったし、まるで説得力がなかった。

「あいつらメキシコ人だから、ムリ」と言われて、

「じゃあ、仕方ないですね」と引き下がれるわけがない。

「じゃあ、通訳以上のこと、やらせてもらってもいいですか?」

既に、当初の“ニコっと笑って、プリーズ”と言っていればいいだけの通訳の域は超えている。夜中までクーラーで肉体労働をする“通訳”なら、いっそもっと踏み込んでしまった方がやりやすい。
私は西海岸カーゴ社の社長に掛け合った。

井ノ上 美和(いのうえ・みわ) BPIA(ビジネスプラットフォーム革新協議会) ナビゲーター、ジョーシス 顧問
井ノ上 美和

メキシコ、スペイン在住歴6年のラテン系。
通信ベンチャー、医療用具メーカーなどの国際ビジネス業界で、オペレーション・営業のマネジメント、採用・社員教育、ISO/FDAの品質監査、広報、システム構築など、様々な業務に携わった経験を活かし、海外および国内企業で業務・組織改善、人財育成などのコンサルティングや研修を行う。
学習院大学、HAL東京などの教育機関や大手IT系企業を中心に、人生観や生き方をテーマにした講演会も展開。
スペイン語の通訳翻訳業では、ビジネス通訳のほか、フジテレビ「奇跡体験!アンビリバボー」などメディア出演も。

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。