井ノ上 美和
BPIA(ビジネスプラットフォーム革新協議会) ナビゲーター、株式会社F&S Creations 顧問

2年目のチェリーシーズンは、あっという間に終わりを迎えた。 まだやりたかったことは色々あったが、肝心のチェリーが採れないのではどうしようもない。
生産ラインは、あと数日間は、か細く稼働する予定だったが、私は西海岸カーゴ社(仮名)のスタッフに後片付けを任せ、一足早くチェリー工場を引き上げることになった。

一人ひとりとハグしてお別れのあいさつ

段々とチェリーの収穫量が少なくなってきていたから、西海岸カーゴ社の社長から「もう引き上げていいよ」といつ言われてもおかしくない状況だったが、当初言われていたより数日早く、その日は来た。

「Miwaちゃん、もう明日ラストでいいよ」

ある晩、いきなりロスにいる社長から連絡が来た。
1年目はこの唐突なスケジュール感覚に驚いたが、2年目ともなると、私ももう慣れていた。
予測の立たない青果を扱っている、というだけではなく、西海岸カーゴ社の社風も大いにあったとは思うが、とにかくチェリーシーズンでは、“予定”や“計画”という言葉は、ないに等しかった。

そして、最終日。
私は、みんなにお別れのあいさつをするために、いつものように工場の各セクションをまわった。

数日前から、「Miwaはいつまでいるの?」「さぁ、まだ今週いっぱいはいると思うよ」というような会話はちょこちょこ出ていたし、そろそろお別れの日が近づいているというのは分かっていたが、いきなり「今日で最後」と言われると、やはりワーカーたちも動揺する。

「今日で最後なのよ。今年も色々助けてくれてありがとう!」

いつもは手を振ったり、笑顔を返し合うだけのワーカーたちとも、最後となると、一人ひとりハグをしたり、頬にキスをしてお別れのあいさつをした。

メキシコやラテンの国々では、女性が家族や友人とあいさつをする時、ハグや握手をして頬にキスをするのが一般的だ。

キスといっても、頬と頬をくっつけて「チュッ!」と音を立てる程度だが、学校や職場、パーティーなど、いつでもどこでも「おはよう」や「バイバ〜イ」の度に、友達一人ひとりとこのあいさつをするので、かなり時間がかかる。
時間はかかるが、このひとつひとつ丁寧なあいさつに、相手を思いやる気持ちが現れているようで私は大好きだ。

ちなみに、男性同士の場合は、親子や恋人でない限り、ハグや握手のみで、キスはしない。ハグも親しい友人間に限られる。

こうして時間をかけて、工場のワーカーたちとお別れのあいさつをしながら、2年目のシーズン中、一番仲良くしていた選別のセクションにたどり着いた。