1年目に通訳だった私が、2年目にアドバイザーとして工場に入ることができたのは、このエピソードのおかげかもしれない。

“教祖様”や“女神”は言い過ぎだとしても、ワーカーたちが私のことを「いつも細かいことを言ってくるうるさいネェちゃんだ」ではなく、「いつも見守ってくれている存在だ」と認識してくれていることを知って、私はほっとした。そして、ワーカーたちは私が思っていたよりずっと前向きで、理解のある人たちなのだと改めて感じた。

“鷲”のように見守っている存在

実は、“見守ってくれている”と感じていたのは、パレッタイズの男性ワーカーたちだけではなかった。

2年目のチェリーシーズン、私が足しげく通ったのは、選別のセクションだった。
次々と流れてくるチェリーの川の中から、傷モノのチェリーをどんどん拾い上げていく作業や、おばちゃんワーカーとのお喋りで情報収集をするのが大好きだった。

デイリーレポートの作成や不良の修正作業などで、選別工程の作業に入る時間が取れない日でも、選別のセクションに顔を出して挨拶だけはしていた。
選別のセクションに限らず、毎日工場を巡回して、それぞれのセクションのワーカーに笑顔で挨拶をするのが私の日課だったし、それは2年目も変わらなかった。

選別のチーフからもらった鷲のキーホルダー。鷲はメキシコの象徴

シーズンも中盤を過ぎた頃、私は選別のセクションのチーフクラスの女性ワーカーから鷲のキーホルダーをもらった。

「Miwaは私たちの鷲だよ。
いつもあちこち飛び回って、私たちを見守ってくれているから」

メキシコ人にとって、鷲には特別な意味がある。
鷲はメキシコのシンボルだ。国旗にも、ヘビをくわえた鷲がサボテンに止まっている姿が描かれている。

男性ワーカーからは、女性の象徴ともいえる“マリア様”と言われ、女性ワーカーからは男性をイメージさせる“鷲”だと言われたのは、偶然かもしれないが、とても興味深かった。

いずれにしても、男女関係なく、ワーカーたちから“見守ってくれている存在”だと思ってもらえたのは、本当にうれしかった。

指先がすぐかじかみ、脳ミソも凍るような0℃のクーラー(冷蔵倉庫)の中で、夜中まで作業をしたり、大柄な男たちに交じって肉体労働をしたり、根気よく品質についての話を続けてきたことが、全部報われた気がした。

そうこうするうちに、2年目のチェリーシーズンは、あっという間に終わりを迎えた。
大凶作で、いい品質のチェリーがあまり収穫できなかったことに加え、カリフォルニアの後にチェリーのシーズンが来るワシントン州は、皮肉にもこの年大豊作だった。当然、業者やワーカーたちはどんどんワシントン州に流れていった。

そして、私が工場に来るのは、これで最後という日。
またもや私は感動のシーンを体験する。

井ノ上 美和(いのうえ・みわ) BPIA(ビジネスプラットフォーム革新協議会) ナビゲーター、ジョーシス 顧問
井ノ上 美和

メキシコ、スペイン在住歴6年のラテン系。
通信ベンチャー、医療用具メーカーなどの国際ビジネス業界で、オペレーション・営業のマネジメント、採用・社員教育、ISO/FDAの品質監査、広報、システム構築など、様々な業務に携わった経験を活かし、海外および国内企業で業務・組織改善、人財育成などのコンサルティングや研修を行う。
学習院大学、HAL東京などの教育機関や大手IT系企業を中心に、人生観や生き方をテーマにした講演会も展開。
スペイン語の通訳翻訳業では、ビジネス通訳のほか、フジテレビ「奇跡体験!アンビリバボー」などメディア出演も。

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。